3.狂剣のやり方。
「ふむ……。なるほど、な」
「あ、あの! アルフレッドさんは、どうしてこの依頼を――」
「気まぐれだ。だから、報酬も必要ない」
「え、そんな……」
マオは驚いた。
まさか、自分の依頼を受けてくれる人がいるとは、と。
さらには自身の境遇を聞いた上で、気まぐれと言い、報酬を不要とするなど。これでは単なる善意の第三者ではないか。
しかし少年にとっては、これ以上ありがたい話はなかった。
対してアルフレッドは何を考えていたか、というと……。
「(こんな健気な子から、お金を取るなんてできないよぉ! もうなに、この純粋で優しい子。私のことをキュン死させるつもりなの!?)」
悶えていた。
この上なく悶えていた。
しかし、そんな蕩けた表情を見せるわけにはいかない。なので狂剣は、少年に背を向けて咳払いを一つ。さっそく本題に入ることにした。
「その少女――エリナはその姓からして、犯罪組織の疑いがかかっている【クレイレス商会】の令嬢に違いないだろう。彼女の口振りからも、そう読み取れる」
「です、よね……」
「しかし、それと今回の一件は別問題だ」
「え……?」
アルフレッドが厳かに告げると、少年は目を丸くした。
「今回の私の役割は、マオをエリナのもとへ無事に届けること。そこから先、どうするかはキミ次第だ」
「ボク次第……」
「キミはエリナくんのことが好きなのだろう? そして、その気持ちに身分や住む環境など、一つも関係ない。キミはキミの、心のままに想いを告げるといい」
「…………」
そして、その言葉に息を呑む。
自分の心のまま、正直に想いを告げる。
そんなことが許されるのだろうか。でも、許されるなら――。
「分かりました! ありがとうございます!!」
マオはその時に決断した。
もう振り返らない。ただ真っすぐに、想いをぶつけるのだ、と。
「ふ……」
対して、狂剣は静かに笑んで。
「(あぁ、あぁ! なんて一途なの!? 可愛らしい!!)」
改めて、悶えるのだった。
◆◇◆
――数時間後。
クレイレス家の屋敷、その一室にて。
「くはは。やはり、表の稼業よりも裏家業の方が儲かるものだな! 王家や貴族、同業の目を盗むのは苦労するが、それに見合った成果がある!!」
クレイレス商会現頭取――ゴルドルフ・クレイレスは、ワイングラスを揺らしながら、満足げにそう言って笑った。近年、傾きかけていた商会も、裏家業に手を染めてからは復興。さらには、私腹を肥やすには十二分な金額が飛び込んできた。
「いっそのこと、いま雇っている冒険者に殺しをさせるのも面白いか。同業の者たちを殺せば、その分だけ表の仕事も捗るだろう」
そして今、彼は一線を越えようとしていた。
これまでは盗みなどを多く働いていたが、実入りに目が眩んだのだろう。自身の中にある善悪の基準など、ほぼほぼ消え去っていた。
だが、そう考えてワインを一口した時だ。
「頭取! ――屋敷に侵入者です!!」
配下の冒険者の一人が、血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「む……。それは、騎士団か?」
ゴルドルフは不機嫌そうにそう訊く。
だが、配下の者は首を左右に振ってこう叫ぶのだった。
「違います! 侵入者は二人、正面から! そのうち一人は――」
絶望に顔を歪ませながら。
「狂剣――アルフレッド・ウィスローズです!!」