1.不思議なクエスト。
「おい、狂剣さまだぞ……」
「今日はいったい、どんな畏ろしいことを……?」
アルフレッドがギルドに顔を出すと、他の冒険者たちは口々にそう言った。
とはいえ、そんな話をされているなど、当のアルフレッドは知らない。というか、他人からどう見えているのか、彼には興味がないのだ。
それ故に、この時のアルフレッドが考えていたことは、周囲の思いとは裏腹に……。
「(……あぁ。今朝、道端に咲いてたお花、綺麗だったなぁ)」
という、物凄くのほほんとしたものだった。
しかし不自然に顔を綻ばせると奇妙に思われてしまう。その程度の認識はあるのか、アルフレッドはこういったことを考える際、決まって表情を引き締める。
結果として、クエストの貼り出される掲示板の前で――。
「睨んでおられる……!」
「なんという、鬼の形相……!?」
「お眼鏡に叶う依頼がないのか、それとも巨悪を見つけたのか……!?」
強面に力が入り、それこそ見る者を震え上がらせてしまうのだった。
もちろん、アルフレッドにその気はない。
さて、そんな彼が考えていることはこんなことだった。
「(……あれ? 今日は珍しい依頼が入っているんだね)」
掲示板の右下。
そんな目立たないところに、こっそりと貼り出された依頼について。
「(えっと、なになに? ――女の子への告白の手伝い…………あらまぁ!)」
ふやけそうになる口元を大きな手で隠し、眉間に皺を寄せる。
なんとも可愛らしい依頼に、アルフレッドは興奮した。そして頭の中には、一気にお花畑が広がっていく。書かれた文字からして、依頼主は小さな男の子だ。
なんだろうか、ギルドという殺伐とした世界に、それこそ道端で花を見つけた朝のような。そんな気持ちになるアルフレッド。
「(こ、これは他の人には任せられない! 私がなんとかしなきゃ!)」
一瞬にして、妙な使命感に目覚める狂剣。
彼はその依頼書を乱暴に剥ぎ取ると、そそくさと受付へと向かうのだった。
「狂剣さま、いったいどんな依頼を……?」
「きっと、物凄い難易度のそれに違いないぞ……」
そして、彼が立ち去った後。
残された人々は、こそこそとそんな会話をするのだった。
狂剣と名高い男が理解される日は、きっと遠い未来の話なのだろう……。