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BRAVER-大会編-(前)  作者: Tommy
第1章―目覚め―
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8.鎖剣の女社長

 ミッチェル社長に、こんな形で再会することにになるとは思っていなかった。


 レックスは資料室で、大会参加者についてのまとめを見直していた。

 資料室は普段誰も来ないので、とても落ち着くのだ。

 そのため、この部屋は殆どレックスとシルクしか出入りしない。

 そんな絶好の仕事はかどり場で仕事をしていても、今日だけはなぜか落ち着かない。

 殆ど、仕事がはがどっていない。時はすでに夜であった。


 なぜ、あの女社長が出てくるんだ。


 そのことばかり頭に浮かぶ。彼女ほどの実力を持つ女戦士が、マイノリティの大会に出るなど、それほど考え難いことだったのだ。

 頭を抱え、なんとか仕事に戻ろうとする。今は仕事に集中するべきだ。後で考えよう。

 そう思ったときに、内線で電話が入った。資料室に電話が入るということは、彼に用があるということだ。

 レックスは電話に出る。


「こちら資料室」

「レックス様、お呼びが入りました」

「誰からでもいい、断っておけ。俺は忙しいんだ。」

「それが……ミッチェルグループの社長からなんですが」

「なに!」

 彼女本人から、理由を聞くべきなのだろうか。

「やっぱりオーケーを出しておけ。俺もあいつに用がある」

「わかりました」


 彼女自身から、何の用があるんだ。こんどはそのことで頭を抱えるレックスは、資料室を出た。

 外に出て、廊下を歩いていると、隊員に話しかけられた。

「車、出しましょうか?」

「歩いて着く距離だ。一人にさせてくれ」


 ピース街の夜の歩道を一人、歩く。秋の冷たい風が彼の横を通り過ぎていく。

 建ち並ぶビルの数々。その中のミッチェル社ビルが一際大きくそびえ立つ。




「お久しぶりですね」金髪縦ロールの黒服女社長にまずはそう言われた。

「あぁ・・・そうだな」レックスは社長室の周囲を見渡しながら答える。

 流石に大企業とは言えど、この広さはなんだろうか。全く落ち着かない。

「どうぞ座ってください」と、ミッチェルは言った。

 据えられた手の先には、ぽつんとソファーが置いてあった。

 レックスは黙ってそこに座った。ミッチェルはその反対側に座る。

 ミッチェルは、静かに話し始めた。

「"あの時”にご一緒したきりですね。そう、あなたが黒髪の……」

「もうそれ以上昔のことを言うな。昔やったことと決別したい」

 レックスは、思い出したかのように言った。

「そう言われると、思い出しちまうじゃねーか。あの武器どうした?お前の大事な『鎖剣』は」

「あぁ、あれならちゃんと持ってますよ。世が平和になったから、腕も衰えてるとは思いますが」

 ミッチェルは鎖剣という、独自の武器を使うことでも有名だった。

 長い鎖を使って、中距離でも威力のある攻撃ができる。中距離武器の弱点の隙の大きさを剣として持ち替えて戦う、画期的な武器であった。

 繊細な技術を持つ彼女は、以前の『戦い』で成果を出している。

 その後は、企業を立ち上げ成功し、一躍時の人となった。

 そんな彼女が妖艶な口を開く。

「そう聞くあなたこそ、その大剣いつも背負ってますね。重くはないのですか?」

「この剣の重さなんかより、俺の心のほうがずっと重いさ」

 ミッチェルは、今回の用件について話し始めた。

「ところで、私がなぜ貴方を呼び出したのかですが」

「俺もあんたも忙しいんだ。電話じゃ駄目だったのか?」

「直接でないと話せないことなんです」

 レックスは不審に思いながら、彼女の話を聞くことにした。

「実は、私がマイノリティに参加したことについてですが」

「そのことなら丁度気になっていたところだ。教えろ」

 彼は気になっていたことだったので、急かすように聞く。

 彼女はそれに答えるように、口を速める。

「まず始めに、私はあなたがたブレイバーについて、誠に勝手ながら調べさせていただきました」

「そいつは誠にご勝手でございますな」

「するとあなたがたは元々、『天使』『悪魔』といった見たこともない存在が国を襲うとでっち上げ、それらに立ち向かうべく作られた下らない組織なんですよね?」

 ミッチェルは元からこういう性格だった。口調は丁寧だが、よくよく考えるととんでもないことを言う。レックスはこの性格が苦手だった。だが、今回に関しては間違ってはいないため、否定はせずに、

「世間からはそう思われていても仕方ないな」と答えた。

 ミッチェルは間を空けずに続ける。

「ですが、ついこの前のシュテンハイム刑務所で起きた惨殺事件。そこでの目撃者の証言から、悪魔らしき者が現れたことになっている」

「あぁ……お?」

 レックスは引っかかる点があった。なぜそんなことを彼女が知っているんだ。この情報はまだレックスとシルク、そして杉野しか知らないはずだ。

「おい、なんでそんなことまで知ってるんだよ社長さん」

「話を最後まで聞いて下さい」

 その時彼は、相槌をしていたつもりだったのが口を挟んでいたことに気づき、

「……すいませんでした」と口を尖らせて謝った。

 まだミッチェルの話は続く。

「これらのことから、悪魔たる存在は実際にいたことになると仮定しましょう。そうするとある事が同時に証明されます」

「対となる存在、天使がいても不思議ではない」

「そうです。その仮定の上で、私は思ったことがあるんです。実際にそれを確かめることが、私が大会に参加した理由なのです」

「どういうことだ?」

 彼女は、とんでもないことを口にした。


「大会参加者に、天使もしくは悪魔がいる」


「!」

 さすがにその『仮定』は信じられないので、レックスは怒りを込めて反論する。

「どうしてそう決め付けることができるんだ!」

「だってそうでしょう? 2つの存在は、人間を殺すことにあるんですよね?」

「それは昔の記録に残っていただけで!」

「もしそうなら最初に殺すべき人間は誰ですか? ブレイバーです」

「無茶苦茶だ! そんな仮説信じられるか!」

 レックスが怒鳴ったその時だった。

 ブレイバー本部から、警報が鳴ったのだ。

「警報だと!? こんな夜に何があったんだ!」

 その声をさえぎるように、携帯電話が鳴った。レックスの物だ。

「失礼。――なんだ! どうしたんだこれは! ――っ!? 嘘だろ……!?」

 レックスは信じられなかった。


「町に、悪魔が出現した……!? しかも集団で……!?」


「どうやら、私の仮説は通ったようですね」ミッチェルは、なぜか嬉しそうに冷静に言う。

「くっ!すぐ向かう!」

 電話を切って、ミッチェルに言う。

「ミッチェル! 失礼だが窓から出させてもらう!」

「久々にあなたのそんな姿見ましたよ。どうぞ」

 レックスは剣を背負い直し、窓を開ける。

「じゃぁな!」


 そう言いながら跳び上がり、隣のビルの屋上に飛び移る。


 次から次へと建物に飛び移り、すぐに姿が見えなくなった。

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