7.ピーナッツの背比べ
まったく、なんでこんなことになったんだろう。
僕はそう思いながら、今日の昼のことを思い返してみることにした。
長い入隊式が終わり、これから街を守る勇者になったんだ。そんなことを考え、浮かれていたときに『そいつら』は話しかけてきた。
「お前がスタンか?」
「お前がスタンって奴なのかい?」
声を揃えて、さっき僕の噂話をしてたいやーな奴らが話しかけてきたんだ。
「な、何の用さ」動揺して僕は答える。
「お前のおかげでさぁ、俺らがビリコンにならなくって感謝してるんだな」
「そうなんだよ、あの試験ビリコンになりそうだったから不安だったんだよね」二人は順番に答える。
「ビリコン?なんだそれ、専門用語?」慣れない言葉に戸惑う僕。
「そんなわけねーだろ!ビリコンビの略なんですけどぉ!頭かてぇんだなやっぱ!」片方のチャラけた方が答える。
そ、それって誉められてるのかな……?
「で、結局用は何なの?」と尋ねると、
「お前みたいな落ちこぼれには、お稽古してあげる必要があるんですよね〜」
「そうそう、落ちこぼれのピーナッツ野郎だからね」
と答えた。
「どういう稽古さ」
「どっちが先に倒れるか、倒れるまで斬りあうのみ!」彼の持つ輝かしい剣を見ながら、チャラけた方が答える。
「それこそブレイバー!」比較的落ち着いてる方がさらに答える。
「勝手に武器使っちゃだめだよ!」
そうだ。こんな剣でも一応、人肌に触れたら切れる。無駄な暴力をしないって約束じゃないか。自分の剣を見ながら思う。
「お前やっぱ頭固いなピーナッツ」チャラいのが言う。
「固くないよ!というかピーナッツは余計でしょ!」僕は半分キレかけていた。
「おやおや、そこまで言うなら俺に勝てるんですか?」挑発的にチャラけたのは答える。
「君らみたいな奴には負けたくないね!」思わず口に出してしまう。
「じゃあ勝負乗るか?」
「いいとも! まとめて来いよ!」
そう言った瞬間、僕はハッとした。なんてことを言ってしまったのだろうか。取り返しがつかない。
体も口も凍りついたままの僕に二人は答える。
「じゃあ今日の夜に大会場に来い。ボコボコにしてやるからな」
「ふふっ、楽しみだね」
二人はエクセル、そしてワイヤーと名乗り去っていった。チャラけた方がエクセル、落ち着いたほうがワイヤーだ。
この後僕は、寮の部屋のカギを受け取ってから、部屋を放置し、カギを置きっぱなしにして外に出た。
本来の訓練は明日からだったので、都合がよかった。
まだ同じ部屋の人に会ってないけど、僕は夜まで寮には戻らなかった。
ずっと、剣術を磨くのに専念することにした。
2人とケンカすることになる、しかも危険だ。
無駄な暴力はしない。平和を象徴する我々が、絶対にやってはならないこと――
レックスさんの言葉が脳裏をよぎるも、目の前にある現実を見て、必死にイメージトレーニングを重ねる。
相手が走って来た。対する斬りは前に横に。足元をとらえ、体で相手を抑えて刃を突きつける。
ぼくの勝ちだね。もう懲りたかい?――じゃない。相手は2人だ。こんなんじゃだめだ……
その時、2人はやってきた。
「おいおい、随分早いじゃねーか」
「そんなに必死になったって無理だよ」
本当は勝負なんてやだ。和解したい。けど無理だよ。
「まぁあれだけの大口叩く位だから、乗り気だよな!」
「決まってるよね!」
まるで余裕をかまして彼らは言う。
嫌気が差してきて、僕は言った。
「ねぇ、やっぱりやめようよ」
反応は当然のものだった。
「はぁ? お前があんだけ言ったから来てやったのに、もう逃げ腰ですかぁ?」エクセルが首を前に出して言う。
「ダメに決まってるじゃないか。僕らも楽しみにしてたんだよ。君みたいな奴をボコすのをね」ワイヤーは笑みを浮かべ、静かな声でそう言う。
「やめようよ!レックスさんの言葉が聞こえなかったの!?」
「聞こえてたよ。これはあくまで稽古だよ」
「そうそう稽古なんだよなこれが」
「もう聞いてくれないのか……」
「なぁワイヤー、もうコイツボコしていい?」
「いいんじゃない? もうやるか?」
「おっしゃ! そうと決まればやってやるぞぉ!」
その会話をした後、彼らは綺麗な剣を取り出し、突然僕のもとに全速力で走ってきた。
もう僕ボコされるのか。そう思い僕はボロい剣を構える。自分からは手を出さない。出したくない。
勝負は、意外な方向に向かっていった。
2人が、こけた。
あまりの勢いにこけた。
2人がまとめて、重なってこけてくれたので、僕はそれを押さえにいく。
ひょっとしたら、勝てる?そう思いながら、片足で2人を押さえつけ、剣の刃先を首に突きつけた。刺す気も斬る気も満更ない。ただの脅しだ。
僕は、「もう、やめようよ、おし、まい、に、しよう、よ」自然と震えた声で言う。
2人に答えが無い。うつ伏せのまま、こちらを向こうとしない。
ぼくはあれっと思い、剣をしまって顔を見る。
二人は、完璧気絶してた。
ビビってたのは、実は向こう側もだったのか。
僕は二人をかかえ、寮に向かった。
彼らはどこの部屋なのか。ポケットに入ってた紙を確認し、部屋の番号を確かめる。
36番と書いてあった。
何か見覚えがある気もしながら、その部屋に向かった。
その部屋は、僕が昼に放置した部屋そのものだった。
2人をベットに横たわらせ、介抱することにした。
下手に治療するよりも、放って置いた方がいい。
そして、窓を開け、空気の循環をよくしようとした。
瞬間、大きなサイレン音が流れた。警報だ。出動、もしくは非難の合図。驚いて外を見ると、そこには信じがたい光景が姿を現した。
朝の夢が、こんな形で正夢になるとは思っていなかった。