33.誤算
「スタン、どういうことだよ! お前らしくもないぞ! 自分から勝負を挑むなんてさ!」
ワイヤーが僕に言った。
確かに僕は、ここに来るまで、エクセルを止めに行こう、と考えていた。
「でも……こんなサイテーな奴が目の前にいるんだ! 僕はエクセルの考えが変わってることに感謝した。そしてあいつにも……そのことを分からせる!」
「スタン……どうしたんだよ」
ワイヤーが僕に言った。
「え?」
「何かが変わってる……なんかこう、"何かを悟った"ような、"戦いを切り抜けてきた"ような目をしてるんだよ。とにかく前よりも、ずっと目の輝きが増してるんだ……」
「どういうこと?」
「勇気が、あふれ出ている……」
「僕から?」
確かにそうかもしれない。いつもだったら……否、ついさっきまで『安全』を重視していたんだけど、ここに来たら気持ちが高ぶって、アイツと勝負したいなんて言うんだからな。
でも何故か、僕は前のように後悔はしていなかった。寧ろ確固たる自信があった。
「サイス、僕と勝負だ!」
僕は剣をサイスに突きつけた。
「ヒャーハハハハッ、お前正気か!? そんな錆びちまったボロっちい剣で俺と勝負すんのか? やーめとけ、そんなんじゃぁ俺の服どころか、髪の毛だって斬れねぇから!」
流石に成績が良くても武器の知識はあまり無いようだ。
「それはどうかな?」
「…あぁん?」
鳶人さんに聞いて初めて真価が分かったこの「熱流剣」。これから使いこなすしかない。
僕は『心』を剣に込めようと努力してみた。
息を吸い、静かに吐く。精気が漏れないように、一点に集中する。
「すぅ――っ」
「何してんだ? ……あっ!?」
そうだ、あの時と同じだ……
「赤く、光ってる……!?」
僕の熱流剣は、どうやら応えてくれたようだ。
「いくぞ!」
僕は走った。
「せやああああっ!」
両手でサイスめがけて振り下ろす。
サイスはそれを鎌の刃の部分で受け止めてきた。
「くぅっ!」
そして、僕の腕を通して、押し返しているのが分かった。
こんなんじゃダメだ、こんなんじゃダメなんだ!
さぁ、エクセルがあんだけやられてるんだ!
「ちょっと火傷を負ってもらうよ!!」
僕は全身に力を込めた。
「あああああああっ!」
この時僕の周りでは、何が起きていたかは分からなかった。
でも、体中が熱くなっているのが分かった。
「くくぅっ……でぃあ!!」
「うわっ!!」
サイスは僕を蹴り飛ばした。
僕はしりもちをついた。そしてすぐに起き上がった。
そして起き上がったときには、サイスがぐったりしているようだった。
「はぁっ……はぁ……っ、お前、どうして出来るんだよ……"魔術"」
サイスは僕に息を切らせながら聞いた。
「僕にも……わか、ら、ない……よ」
余裕を持って答えられるかと思ったが、意外にも僕の体は力が入らなかった。
「誤算だったわ……でも"不正解"ではない……てめぇ……やっぱもうちょっとかわいがってやるよっ!!」
突然サイスがこっちに向かってきた。
――焼き殺せよ
「え!?」
今、誰かが話しかけてきたような気がした。
―そんな奴、焼き殺せよ!
「……!」
焼き殺すなんて、違う! 僕はただ、反省してもらいたかっただけだ、そんなこと僕にはできない!
―ククク、何も分かってないな貴様
一体誰なんだ……幻聴なのか? とにかく今はサイスがこっちに……
「!!」
何だ、これ!?
いつの間にか体が勝手に走っている!
僕の右手は力強く剣を握り締め、サイスを突き刺そうとしている!
「おおおおおおおっ!!」
僕は僕でない叫びをあげながら、サイスまで突っ込んでいく。
「ぶっ飛ばしてやるぜぇぇっ!!」
対してサイスは、それに応戦する形だ!
ダメだ、止まらない!
誰か僕を止めて!!
サイスと僕が近づいたその時だった。
突如、地面から大きな何かが出てきたのだ。
大きいなんてもんじゃない。"巨大"だった。首を上にしなければ、頂上が見渡せないほどの。
「!!」
「な、なんだ!?」
あまりの出来事に、後ろに退かざるを得なくなった。
「な、なんだこれ……」
「ツララ……?」
地面から出たそれは、まるでトゲのようだった。そしておそらく、氷で出来ていた。
恐ろしいまでの冷気が僕に伝わってきた。
「きーみーたーちっ! あそんでないではやくねなさーいっ!!」
外から声が聞こえた。
それは一度聞いた子ことのある声だった。無邪気なのに、何か引っかかるこの感じは……
「ク、クリスさん!?」
「何だ、あの女!?」
そうだ。医療班でもあり前衛部隊でもある、あのクリスティーさんだ。
ひょっとして、この巨大なツララは、あの人の手によるものなのだろうか。
「きみたち。ブレイバーの規則によれば、"大会及び護衛以外の戦闘行為は非平和的活動とみなされ、当組織の目的に反する危険性がある"って書いてあるんだよね」
クリスさんは手帳のようなものを取り出し、それに目を通していた。
「……マジかよ」
サイスは頭を抱えていた。
「申し訳ございませんでした。このスタン・ハーライト、その事実を存じた上で行為をはたらいたが故、それなりの罰則は覚悟しております身上です」
僕は謝った。
「でも、今回はいーよ」
「え?」
「いいのか?」
「いーよ、もう大会も近いし、見逃してやんよ。 ただ、"いたのがボクだったから"の話だってことは覚えときい。もしここにいるのがシルク嬢だったら、もしレックス氏だったら……タダじゃすまないよね、ははっ。そうだ、ボクがエクセル氏の怪我は治しとくよ」
クリスさんは笑いながら言った。
「きみたちは、もっとケンコー的なお稽古をしなさい。マイノイティ大会はあとひと月だ。体壊さんよーにな。よいしょっと」
そしてエクセルを抱えて、引きずるように大会場を出て行った。小柄なのに、よくやるものだと感心する。
「……あ、待ってくださいクリスさん、僕もお持ちいたしますよー。エクセル、大丈夫かー」
ワイヤーが走って追いかけていった。
「スタン」
「な、なに?」
サイスが僕に話しかけてきた。
「ケリは大会でつけよう。そのときはぜってーぶっ倒すからな」
そしてサイスは、大会場を後にした。
―絶対に、負けるなよ
秋の夜空は、僕を勝つ気にさせてくれる。
「僕、優勝してみせるよ」
その時、月が微笑んだ気がした。