32.塵屑
ブレイバー本部、大会場。
彼はその夜、男を待っていた。
喧嘩を売ってきた、男を。
その男の名はエクセル。
3日前、彼は廊下でその男と出くわした。
成績があまり優れていないことを、彼は少し面白がって煽ったら、やはり脳は弱かった。
喧嘩腰になったので、今夜に勝負をしようと持ちかけたのだ。
彼の名はサイス。
今年入隊したブレイバーの中で、成績はトップを誇る。
青い髪の毛を逆立て、特注の黒い隊員服を羽織り、静かに時を待っていた。
彼の自慢の武器は大きな鎌だ。秋の夜空に輝く月が、刃を照らしていた。
そして、待っていた男が現れた。
「よう、エクセル君。元気してたか?」
「……」
エクセルは、黙ってサイスの方を睨みつけていた。
「よく怯えずにここまで来たもんだ。待った甲斐があったわ。度胸は一人前のようだな」
「俺は怯えなんかしねーよ」
エクセルが口を開いた。
「俺は人のことを成績だとか頭が悪いとかで判断する奴が嫌いなんだよ。あと、自慢する奴もな」
「へぇーっ」
サイスの唇は歪んでいた。
「じゃぁ俺にもよぉ、いやなヤツがいるんだよ。それはなぁ、『身の程をわきまえねぇ野郎』だ!」
「くっ!」
「さぁ、ひと勝負やろうか、エクセル君。今度の大会、出れないようにしてやるよ」
そしてサイスは、自分の武器を持ちなおした。
「それは、どっちになるんだろうな!」
エクセルは持っていた剣を抜き、そして刃先をサイスに向けた。
その刃は白く、美しく夜空に輝いている。
持っている彼の目もまた、強い光を発しているようだった。
「ほほう、いい剣持ってるじゃん! 家は貧乏だって聞いたけどなぁ」
「てめぇっ!」
エクセルが、走り出した。
「俺ん家の悪口は言うんじゃねぇーっ!」
そして剣をサイスに振り下ろす。
「クズだな、お前」
しかしその刃はむなしくも、鎌の柄を叩いたに終わった。
「おらぁっ!!」
サイスはエクセルを足蹴にした。
エクセルはその場に仰向けに倒れた。
「ヒャーハハハッ、やっぱ大したことねぇなお前! これ傑作だわマジ! やっぱクズは何してもクズだな!」
「……るせぇ」
「あ?」
「るせぇつってんだろ!」
倒れていたエクセルは、サイスを蹴った。
そしてすぐに起き上がり、剣を構え直す。
「ヒヒヒッ、じゃぁ今度はこっちから行くぜ」
そしてサイスは、鎌をしっかり持ち、前かがみにエクセルの方へ向かっていく。
「は、はええ!」
「ハハハーッ、痛い目見るだろうなぁっ!」
そして彼は、鎌を横に振り回した。
「がぁ……っ」
エクセルは、唖然とした表情だった。
そして、膝をつき、倒れてしまった。
「……刃とは反対方向で振ってやった。お前、倒す気にもなれなかったわ。なんつーか、あっさりすぎてつまんねーんだよ」
「ぐぐ……」
「だから……」
サイスは倒れているエクセルを踏みつけた。
「ぐおおおっ!」
「あっさり倒れないで、もっとジワジワ痛みを味わえ!」
「っ―――あ―――!」
エクセルは声にもならない悲鳴を上げた。
「そういや、お前の取り巻き、どこいったんだ? ひょっとして見捨てたのか? ヒヒヒッ、どこまでもカワイソーな奴だなお前! 心の底からそう思ったわ!」
「待って!」
その時、別の声が聞こえた。
サイスは驚いてその方向を見ると、2人の少年が立っていた。
「アイツは確かワイヤー、んで隣のは……スタンだったか?」
「そうだ」
「その通り」
2人は順番に答えた。
「……ス、タン……ワイ、ヤー……なんで」
エクセルが、必死に2人の方を見ようとしていた。
「何で、じゃないよ! 君一人任せてられないに決まっているじゃないか!」
「……ばか、やろう」
エクセルは再び顔を伏せてしまった。
「スタンにワイヤー……ヒャーハハハッ、ワイヤーだけならまだしも、"最下位"のスタン・ハーライトまでが!? 超面白ぇ!クズ心あれはゴミ心、クズはクズを呼ぶってか!?」
サイスの声が、夜空に響く。
「僕は別に屑でもかまわない……でも屑だって、塵だって! 集まれば山となるだけの"力"を持っている! そしていずれは大きな敵にも並ぶ"可能性"を秘めている! それなのに君はそれを否定しているんだ!」
「へぇ……言うねぇ。ま、所詮はクズの言うことだからな」
「まだ言うのか! サイス……君は」
スタンは、持っている剣を抜いた。
「君は、僕と勝負する義務がある!!」