28.ミッチェル再び
「ようこそ」
ミッチェルは、静かに言った。
彼女自身が経営する会社の社長室。そこに、1人の男が入ってきた。
「ミッチェル、何のようだ」
レックスは勝手に、部屋にあった椅子に腰を下ろした。そして持っていた剣を、その場に立て掛けた。
「以前ちゃんとお話できませんでしたからね……」
ミッチェルはレックスの前に座りながら言った。
「それで私もあれから忙しくなって中々お会いする機会が無くてですね……」
「時間が無いなら、とっとと用件を話してくれ」
「わかりました」
ミッチェルはうなずいた。
「以前私が話したのは、私が大会に参加した理由……それもなぜ、マイノリティなのか、ということですね」
「大会の中に、天使……もしくは悪魔といった、ブレイバーに対立する者が紛れ込み、そしてその調査の為に参加した……」
彼女はうなずいて、話を続けた。
「そしてなぜ、マイノリティなのか。それはですね……」
「ん?」
「今回、我が社は大会の主催、およびスポンサーをさせていただくことになりました」
「はぁ?」
レックスはあきれた。大会というのは、ブレイバーの実力を試すためにあるもの。金稼ぎが目的ではないからだ。
会社の宣伝に使われることを承諾した管理委員に、少し腹が立った。
「主催のお前が参加するってことか?」
「はい。ですから、あまり私がでしゃばるのは、良くないと思いまして」
「ふん、嫌味な奴だ」
「ところで、用件はあと二つあります」
「二つ?多いな、今日は」
レックスは頭の後ろを掻いた。
「単刀直入に言います」
「なんだよ、ったく―――」
「暗殺を依頼したいのです」
「!」
レックスは少し驚いたが、すぐに反論を述べた。
「……俺は今、その『仕事』はしていない」
「実は、私はある男に憎しみの心を抱いてしまったのです」
ミッチェルは聞こえないかのように、写真を手渡した。
「人の話を聞けよ……」
レックスはその写真を見た。
「な!」
その写真には、白い羽根の生えた、男の姿があった。
「これは……BMPの奴か!?」
「そうです。その男は、鳥人間計画通称BMPの頭領『ネオン』です」
「ネオン……こいつが!」
鳶人が言っていた、その通りだった。
「ミッチェル、お前どこでこの写真を?」
「それは『企業秘密』です。奴はとても危険な人物です。貴方によって、手を下して欲しいのです」
「……」
レックスは、自分の予測が正しかったことを、少しずつ感じていった。
そして、自分の考えた『可能性』についても、確信を持っていった。
「BMPはこれから先、何をしでかすか分からない組織です。貴方にもいずれ被害が回ってきます。『町民を守りたい』のであれば、先に根を潰した方がいいんじゃないでしょうか。私の私情だけではなく、貴方たちにとっても、有意義な依頼だと思います」
「……」
「報酬は、そうですね――あなたの年収の二倍――いや、五倍出しましょう」
「断る」
「え?」
「十倍だろうが百倍だろうが千倍だろうが俺は断る。もう俺は、人を無意味に殺す気は無い……」
「『無意味』、と?これから危害が大きくなるかもしれないのに?」
「無意味だ。俺は自分からは殺さん。お前にも忠告しておこう……」
「何ですか?」
「無駄な殺しは、無駄な金と、無駄な血しか生まないんだ」
「……そうですか、分かりました。交渉決裂、といったところですね」
ミッチェルはため息をついた。
「では、もう一つ話すことがあります」
「また殺しの話じゃないだろうな」
「違いますよ。単に、明日呼んで来て欲しい人がいるんですよ」
「人を呼ぶのか? 俺がか? お前の会社なら、俺を仲介しなくても十分連絡はとれるだろうに」
「それが……分からないんですよ、連絡先が」
「お前に分からんことは、俺にも分からんぞ」
「いえいえ、貴方がご存知の人物のはずです」
「どういうことだ?」
「数日前……シュテンハイムに現れた、悪魔を一人で倒した少年を……明日の夜、呼んで来て欲しいのです」