27.鳥人間
「あいつは持ち場に戻ったか?」
「ええ、ちゃんと帰しておいたわよ」
シルクはうなずいた。
レックスは、鳶人を連れて、資料室にやってきた。そこには、シルクも待っていた。
彼の『予想』を、話すために。
「よお、シルクちゃん!! 元気してた?」
鳶人がシルクのもとへ寄った。
「あんたが来るまではね」
「んなかってぇこと言うなよぉ! な?」
鳶人はシルクの肩に手を乗せた。
「……」
シルクは鳶人の腕をひねり、体を彼の正面に向けた。
そして、股に思い切り膝蹴りをかました。
「うぐぉぅ!」
そしてすぐ、彼の足をかかとで踏みつけた。
鳶人は倒れこんだ。
「ううぅ……」
「必殺シルキック」
シルクは勝ち誇ったように拳を握り締めた。
「女好きなのはいいんだが、いい加減シルクはあきらめとくのが無難だ。ほら、起きろ」
レックスは倒れてる鳶人の腕を引っ張った。
鳶人はまだ痛みが取れていないようだった。
「う、うぅ……」
「話ができないなら、俺からもう一発かますぞ」
「それは勘弁して……」
「じゃあ起きろ」
引きずられ、ようやく鳶人は起き上がった。
レックスは用件を説明した。
「さて鳶人、俺がなぜお前を呼んだか……」
「手紙の通りか?」
「ああ、そうだ」
そう話しながら、3人は机の前に座った。
「ねぇ、私はまだレックスの手紙を読んでないの。どういう内容だったの?」
「BMPについて、聞かせて欲しいという内容だったんだ。正直驚いた。まさかレックスにこの話をすることになろうとは」
「……」
「鳶人、聞かせてくれるか?」
「周りに人はいないか?」
鳶人は急に周囲を気にし始めた。
「大丈夫よ。もし人の気配がしたら教えてあげる。多分私が一番敏感だから」
「すまないシルク」
「ありがとよ、シルクちゃん!」
「"レックスのため"ならなんでも協力するわよ」
「とほほ、俺は一体……」
うつむいてから、再び話を始めた。
「5年前…オルダーで起きた、東西戦争は知っているな?」
「ああ、知らないはずはない」
「そういえばオルダーってところだったっけ」
「あのとき東の軍にいたのが、レックスをはじめとして、世界中から集められた傭兵。西にいたのが、科学力を結束した派閥……」
「科学力を結束した派閥?」
「ああ。その中にBMP、鳥人間計画があった」
「!」
「BMPは、"人間の力だけで、空を飛ぶ"ことを目標とし、幼い子供をさらって……翼を、植えつけていった。数百年前から、ずっと続いているらしい。遺伝子を組み替えて生まれた鳥人間もいた……」
「ひどい話よね……」
「この計画によって生み出された鳥人間は、強大な力を持っていた。そして東の軍を圧倒した。だが……」
「それを俺が止めた」
「レックスが?」
シルクはレックスを見つめた。そして、”黒髪の狂乱者”の名を彼に投影した。
「鳥人間……俺たちは、このベルセルクに大敗し、戦争は終わった……」
「ちょっと待って。あなたはBMPのメンバーだったっていうの?」
「……そうだ」
鳶人はおもむろに立ち上がり、両腕に巻いていた包帯をほどき始めた。
「! は、羽が生えてる……」
彼の腕には、びっしりと鳥の羽が生えていた。骨組みまでしっかりしているようで、それはまさしく「翼」だった。
「俺は、遺伝子を組み替えられて生まれた子だ」
「え!?」
鳶人は、自分の腕を見た。
「そして俺は、戦争が終わってから、この腕を憎んだ。この翼を憎んだ。そして、この翼を作った、BMPを憎んだ!」
鳶人は机を叩いた。
「……俺は、罪滅ぼしにBMPを離れ、ブレイバーに入った……。でも異端視された、この翼のせいで。人に逢いたくなくなった俺は、外との関係を絶った」
「だから、森にいたのね」
「分かってくれたか」
「ええ、そうだったのね……」
「さて、そこでだ。鳶人に話がある」
レックスは両手を組んで前向きになった。
「なんだ」
「BMP……お前たちの中に自分のことを"天使"と名乗る者はいたか?」
「天使だと?」
「あぁ……お前には話していないことがたくさんあったな」
レックスは鳶人に、"悪魔"が2度現れた件、ミッチェルとの会話の件、そしてシルクとのBMPの見解についての会話内容を話した。
「そうか、なるほど……悪魔と対極を成す天使は、BMPの可能性が高いということか」
「そういうことだ」
「……残念だが、そういうことを言ってた奴は知らない」
「そうか。じゃぁ、今指揮をとってる人物が誰かは分かるか?」
「一度関係を絶ったんだ、分からない。ただ、あの戦争の時指揮をしていたのは……」
「なんて名前だ?」
「ネオン、だったか……」
「ネオン……なるほど、わかった。貴重な話をしてくれてすまない」
「そうか……ごめんな、あまり役に立てなくてよ」
「そんなことは……」
「シッ、誰か来るわよ!」
シルクは2人に言った。
「なんだ?」
「資料室に人が来るってのは、俺もしくはシルクに用があるってことなんだよ」
「そうなのか」
「ええ、そうよ」
彼女は、資料室のドアを開けた。
そこには、ブレイバー所属オペレーターがいた。
「失礼します。レックス様、今晩、対談をしたい方がいらっしゃいます」
「……今夜?いいだろう、誰だ」
「ミッチェルグループ社長です」
「ミッチェル……!?」
「このタイミングでか……」
「何かしら……」
「何でもいい。後で俺のほうから顔を出す、そう伝えてくれ」
「わかりました」
オペレーターは資料室から出て行った。
「怪しいわね……」
「何かかぎつけられているような気がするな。なんというか、嫌な予感がする」
「それは俺も一緒だ」
レックスは腕を組んだ。
「あいつとは、しっかり話をしていなかったからな」