25.悟り
「もう一日経っちゃったわよ」
シルクは髪をかきながら言った。
「なかなか帰ってこないわね。大丈夫かしら?」
「大丈夫だ」
レックスはうなずいた。
資料室で、彼らは『調査』をしていた。
街を襲った『悪魔』と、レックスが目を付けた『鳥人間』についてだ。
そしてその『鳥人間』に関する情報が、手に入ろうとしていた。
「奴は必ず帰って来る。あれほどの奴だからな」
レックスは自信げに言った。
「あれほど?」
「そうだ、昨日の件で確信した」
「昨日の件?」
シルクには何を言っているのか分からないのだろうか、首をかしげた。
「昨日、シュテンハイムに例の『悪魔が現れた』と通報があった」
「なんですって!?」
シルクは目を大きく開いた。
「な……なんでそんな大事なこと、すぐに言わないのよ!!」
「言う必要がなかったからだ」
「はぁ?」
「あの時、シュテンハイムに偶然にもブレイバーが1人いたんだ。そのブレイバーが、町民を守ってくれたらしい」
「な、何言ってんのよ、1人で相手が務まるわけが……」
「無論マジョリティの一部の人間には"一応"出動させたが、そのときにはもうカタがついていたんだよ」
「ねぇ、その1人って……」
「そう、あの時あそこにいたのはスタン・ハーライトただ1人。たった1人で奴らを倒したと、通報者は言っていた」
「たった……1人で!?」
シルクの目は、疑いと驚きで半々だった。
「スタン君……一体あの子は何者なの!? 『心』にも変なところがあるし、悪魔を独り身で倒したって言うし……」
彼女は腕を組む。
「俺はそこが気になり、あいつの実力を測るべく、森に送った。あそこの森はド素人なら迷うこと必至。死んでもおかしくない」
「……なんでそんな得意げに言うのよ」
「言っただろう、確信があるって」
レックスは少し笑った。
「でも、それだけで確信を? あんたにしては珍しいわね」
「もちろんひとつだけじゃない」
「もうひとつあるの?」
「実は……お前に言い忘れていたことがあってだな」
レックスは、悪魔が本部に現れた時、倒したのは自分ではなく、スタン・ハーライトが全てを倒したという事実を伝えた。
「――というわけだ。二件ともあいつ一人でやり遂げたんだ。相当できる」
「……どうして」
「ん?」
「どうして、そんな大事なことすぐ言わなかったの?」
「お前のためだ」
「え?」
「あの時……お前の精神が不安定なときにこんなことを言ったら、何をしでかすか分からないからな」
「そう、なんだ。ごめん」
シルクはうつむいた。
「だが……」
「なによ、まだ何かあんの?」
「このことは……秘密にしておいたほうがよさそうだ」
「どうして?」
レックスは眉間にしわを寄せた。
「その……あの時、様子が変だったんだ……」
「様子?」
「そうだ。……なんというか、とても冷ややかな目をしていたんだ。口調も、昨日会った時と違って、何かを知っているような物言いだった……」
「慎重に調べたほうが良いってこと?」
「そう。何か裏にありそうだからな…」
レックスは腕を組んだ。
「……!」
レックスは突然、立ち上がった。
「どうしたの、レックス?」
「……近い、近いぞ!もうすぐ来るぞ、奴が!」
「え!?」
「この"流れ"の感じ……そう、風のような無駄のないこの感触……」
「ま、まさか……」
「鳶人……ついに帰ってくるか」
レックスはにやりとし、剣の柄を持った。
「いくぞシルク、門だ!」
「えぇー、どんだけテンションあがるわけー?」
レックスは背負ってる物の重さを感じさせない勢いで走った。
「はぁ~あーっ、会いたくないなぁ」
そう嘆きつつも、シルクはついて行かざるを得なかった。