24.驚愕
「はっ!!」
気が付いた。
よく森の中で気絶して、無事でいられたな、僕。
普通だったらクマとかトラとか野犬とかに食べられちゃうイメージがあったんだけど。
目の前が明るいってことは、もう朝か。
任務が1日中で終わらなくて、まだ鳶人さんを探せてないから、どうしよう……
「ん?」
僕はその明るさに変な感じを覚えた。
天井があるのだ。これは日の光なんかじゃなくて、灯りだ。
僕は驚いて、起き上がった。
気がつけば僕はベッドの上で寝ていたらしい。
僕が着ていた上着も、いつの間にか脱いでいて、そばに置いてあった。
そして、さっき痛めた腹には、包帯が巻いてあった。
剣は……あれ?
剣がないぞ? 武器がないぞ?
まずい。ここが誰の家か知らないけど、剣が無いと戦えないじゃないか。
あんな錆びてる剣でも、なんだかんだでこんな時だけ頼るんだよな。
ど、どこだ……どこにある?
「お、気がついたか」
男の人の声がした。
「はっ、まずい!」
僕はなんとかして立ち上がろうとしたが、腹部が痛んでだめだった。
「はは、俺は敵じゃないからな?」
そう言い、男の人がドアを開けて部屋に入ってきた。
「飲みな」
その人は急に、カップを僕に渡してきた。
それはスープのようなものであった。僕は空腹と寒さで苦しかったので、何も考えずに飲んでしまった。
味がちょっと薄かった。
この人が悪い人じゃないことは、僕はこれで十分に分かった。
「怪我は平気か、少年?」
その人は優しく問いかけた。
茶髪の男の人で、背が高かった。ベスト1枚しか着てなく、両腕には包帯が巻かれていた。ズボンはすごくダボダボしたやつで、たしかニッカポッカといかいう名前だったはずだ。
「え、まぁ、大丈夫です……」
僕は答えた。少し痛かったけど、このくらいは平気だ。ブレイバーだもの。
「なら良かった。ちょっと心の"流れ"を感じたものでね。外を調べてみたら、案の定お前さんがいたってわけ。治療もしてやって大変だったよ」
心の流れ。そんな言葉を知ってるということは、この人も「魔術」を使えるに違いなかった。
僕はありがとうございます、とお礼をした。しかし気になることがあった。
「そういえば……剣は、僕の剣は!」
「剣? あぁ、一応武器は預かっておいたよ。暴れだすと困るからな。家の大事なモン壊されたらシャレにならない」
男の人は笑いながら言った。
「しっかしお前さん、いい武器持ってるじゃないか、え? あんな使いづらいものを」
「はぁ……?」
いい武器。あんなに錆びてる武器をこの人は"いい武器"と言ったのだ。これには僕は驚きを隠せなかった。
「ど、どういったところがいいんですか……?あんな錆びたもの」
「えぇ? あはは、そうか知らなかったのか。あれは"熱流剣"といってだな、熱に強い合成金属を使っているんだ。主に"炎"を使った魔術で、"流れ"を行い易いように作られたんだ。だけど切れ味は良くないから、あまり使い勝手が良いとは言えない」
買った当人の僕が知らない、武器に関する知識を持っている。この人何者だ?
「そういやお前さん、どうしてこの森にいたんだ?」
「ええと、ある方を探しに……あ!」
僕はこの時、レックスさんの言っていたことを思い出した。
茶髪の男性。森に住んでる。この人なのか?
「もしかして、あなたが天竜 鳶人様でいらっしゃいますか?」
「ん! ああ、そうだが?よく知ってるな。相当物好きだな」
よかった、これで安心した!
「実は……」
僕は置いてあった上着から手紙を取り出した。
「これを……」
そして、目の前にいる鳶人さんに渡そうとした。
「……」
鳶人さんは、手を出そうとしなかった。
「俺は、受け取らんぞ」
「え?」
「俺は……外の世界との関係を絶った」
関係を絶った? そんな……それだったらぁ、いままでの努力はなんだったんだ。
「どうせ、差出人はしょうもない奴だろう。帰ってきてくれとかなんとか。そんなんじゃ読んだって無駄だ、むーだ」
鳶人さんはいきなり投げやりになった。
でも何も読まないで破り捨てられたら困るし、なんとか説得しよう。
「それは差出人の方から、非常に大事な用件が書いてある手紙として受け取りました。そして僕は、ブレイバー本部からこちらの森に参りましたことにございます」
「……ブレイバーから?」
「はい、差出人はブレイバー、マジョリティ所属先陣剣士部隊隊長レックス様でございます」
「何!? レックスだと!」
鳶人さんは、いきなり目の色を変えた。
そしておもむろにその手紙を開いた。鳶人さんは急いで目を走らせた。
「……」
「……」
「な、なに……!?」
鳶人さんは、驚いている様子だった。
「B…M…P…!?」
BMP? 僕にはそう聞こえた。そんな言葉、聞いたことがなかった。おそらく気のせいだろう。
鳶人さんは読み終えたようで、手紙を折りたたんで懐にしまった。
「少年!名前はなんと言う?」
鳶人さんは聞いた。
「え? 僕はスタン・ハーライトです」
「スタンよ、手間をかけて悪いが……」
「は、はい……」
「本部に行く。明日、出発する」
「は、はぁ……」
僕は疲れていて、こうとしか返せなかった。
今の時間がどうなのかは知らないが、おそらく夜なのだろう。
僕の疲れもあることだし、明日でよかった。
「ともかく今日はゆっくり休みな。疲れが表面に出てるぞ」
「お心遣い、ありがとうございました」
鳶人さんは部屋を出ていった。
「あぁ、みんな大丈夫かなぁ……」
僕は天井を見た。
何もない、その天井を。
僕の嫌な予感は、取れることはなかった。