23.強襲
僕は急いでいた。
今日中に、この手紙を届けなくてはならない。
なぜなら―――
「あーん、暗いよーっ!」
ここが森の中だからだ。
邪魔もあったが、なんとか森にたどり着いた僕は、天竜 鳶人さんを探していた。
しかし時間のみが過ぎてゆき、日は沈みかけていたのだ。
「鳶人さーん、いらっしゃいませんかー」
僕は声を出して呼びかける。
「お手紙を届けにまいりましたよー」
自分で叫んでいて、なんだかむなしくなってきた。
あぁ、早く届けて、さっきの件を本部に報告したいものだ。
僕がなぜ、すぐに本部に連絡を入れなかったか。それには二つ理由がある。
まず一つに、「任務優先」だったからだ。
途中で悪魔が出てきたのは確かに大事な用件だ。しかし、ここで本部に戻ったら、時間がかかる。
情報は速さが大事。レックスさんが鳶人さんに大事なことを伝えようとしているので、早く届けなくてはいけないんだ。
僕が一人でなんとかできたので(正確にはジュディさんがいたからだけど)、結果オーライということで。
もう一つは、「隠密行動を心がける」と言われたからだ。
もしここで本部に"戻ってきた"ところを他の隊員に見られたら、"僕が何をしていたのか"を必ず問われる。
こんな時期に、入ったばかりの新人が、外をうろついているのだからね。
あと一つは……『変な感じがした』からだ。
悪魔。僕が一人で、なんとか倒した悪魔たち。
僕はその奴らに、"物足りなさ"を感じた。
非常に弱かったのだ。
こう言うのもなんだが、あれは明らかにおかしい。さっきは喜んでいたけど、よくよく考えてみたら、変なことがいっぱいだ。
だって、あいつらに、ただ熱を与えただけで、あそこまで怯むとは思えない。
数日前、『炎天砲』ですら、まったく応えてなかったんだぞ?僕みたいな奴の攻撃が、そうそう通るとは……
あ、ひょっとして……悪魔たちの勢力に、個々の実力差があるとしたら……
まだ……まだ"上"がいるのか?
もっと大きな、大きな存在が、上にいるのか!?
僕は自分の"もしかして"におびえた。
そうだ、やっぱりおかしい。何か、何かがあるに違いない!
そもそも奴らの"目的"は何だ? なぜ僕たちを殺そうとする? なぜシュテンハイムを…
国際警察の持つ情報はどのくらいなんだ? 刑務所の事件とは関係あるのか?
やはり一度本部に戻って調べたほうが――――
「うっ!」
突然、僕を頭痛が襲った。
「はぁ、はぁ……」
息が荒くなっていた。そして唐突に、くらっ、とした感覚に襲われた。
前が、見えない――意識が、遠のいていく――――
疲れが、溜まっていたのだろうか。
無理しすぎたようだ。やはり一度本部に戻るのが正解だったのかな――
そう思ったときにはもう、どさっ、と倒れていた。
僕が最後に味わったのは、冷たい土の感触であった。