20.秘策
「"鳥"が動き始めた」
男が言った。
黒服を着た男女が話をしていた。光の届かない、とても暗い空間で。
「どういうこと?」
女が言った。
「最近になって、少年・少女誘拐事件が多発している」
「それだけ?」
「いや、そんなはずはないだろう。重要な"証拠"があるんだ」
「証拠?」
「最後の目撃情報からたどっていって、誘拐されたと思われる場所、そこら周囲に証拠が全くといっていいほどないらしい」
「……? 証拠がないじゃないの」
「よく考えてみろ。全くだぞ? "足跡すら無い"というんだ」
「足跡が無い…?」
「そうだ、行方不明になったその場所で見つかったのは、誘拐された子供の履いていた靴と思われる、小さな足跡しかないんだ。それもそこで途絶えている。今の時代のバカ人間の技術でも、いくら裸足で歩いていようがなんだろうが足跡ぐらいすぐ見つかる。近づいた形跡が、はっきりと分かるはずなんだ」
「そ、それって……」
「誘拐する時に、"空を飛んでいた"としか考えられない」
女はここではっとした。空を飛ぶことができ、誘拐できる知能を持ったものなんて、"あいつら"しか考えられないと思った。
「"鳥"……早めに始末したいところね」
女が目を尖らせた。
「奴ら、やり方が気に入らないわ」
「それは僕たち共通の意見だよ。何が"新時代の創生"だ、笑わせる。単に羽根を植えつけてるだけじゃないか」
「それに罪なき幼子を……」
「非道なやり方だよね」
男はため息をついた。
「ジューン、前にあなたがブレイバーに"実験として"送り出した5体を、いっぺんに倒した少年がいたという話をしてたわよね」
「あぁ、あのスタン・ハーライトというガキが、ストロンだと僕は踏んだね。あの燃やし様は、奴くらいしか考えられない」
「ストロン……しぶとい奴ね」
女の拳が震えていた。
「まぁまぁ、落ち着けよハニー」
「私がいかに奴が憎いか知らないくせに」
「何を言っているんだ。どうせ勝つのは僕たち"新種族"だ。奴らは僕たちが"天敵"となり、"生存競争"で必ず敗北する。すぐに"食い殺して"やるさ」
「そうね。必ず殺してやるわ」
「あとはネオンという男が厄介だ」
「ネオン?」
彼女には、聞いたことが無い名前だった。
「そう、ネオン。BMPの中で、最も脅威になりうる存在……そんなに強くはないが、今指導をしてるのは奴らしい。こいつを消せば、簡単に士気を減らせるんだが……行方が掴めない」
「そんな男もいたのね、厄介極まりないわ。とっとと消してしまいたいところね。どうしたものかしら……」
女は考えあぐねた。
「僕に提案がある」
「何?」
「シュテンハイムに奇襲をかけようと思う」
女は一考した。
「どうして? このタイミングではまずくない?」
「だから"奇襲"なんだよ。あいつらのアタマじゃ到底考えられないタイミングでね」
「どうする気?」
「刑務所はもうやったから、住宅街が望ましい」
「住民を殺すの?」
「今回の作戦は単に"陽動"に過ぎない。僕たちは今は人間を殺生してもしょうがないし、"鳥人間"どもの反応を見るだけだ。奴らが出てきたら、そこで殺す」
「あの男……"黒髪"はどうする?」
「ベルセルク? ハハハハッ、あんなのクズ同然だよ。戦う気すら失せたね。ブレイバーの勢力に脅威はいない。この作戦は必ず成功する」
「例の少年……ストロンが出てきたら?」
「あいつはまだおそらく不完全な状態だ、脅威になるとは考えにくい。まぁ、厄介そうなら殺す。それだけさ」
「そう上手くいくかしら」
「単に来たらの話だ。今の段階では、まだ奴らの勢力も少ないはず。だからそこで来た奴は即刻潰せば相手には大きな痛手になると見た」
「種の内から抹消すると」
「そう」
「もし来なかったら?」
「そのときは、反逆するブレイバーどもを"一応"消しておく。この作戦に失敗はない。僕はブレイバーは大嫌いだけど、もっと"絶好の機会"で殺したいんだ」
「ふーん……勝手にすれば」
女はまだ考えてる様子だった。
「……ハニー、そろそろ時間なんじゃないか?」
「私が時間を把握してないはずがないわ」
しかし女は一応腕時計を見た。
「……でも、少し話し込んでしまったようね。私もスタン・ハーライトについて調べてみるわ。私も私で、いいこと思いついたし」
女は翼を広げた。
「じゃあ、僕はこの"作戦"を実行させてもらうよ」
「上手くいくといいわね。残念だけど、私はそう上手くいかないとおもうわ」
そう言い残して、女は飛んだ。
「ふん、勝手に言ってな、プレジデント」
その時には、女の姿はすでに無かった。