18.新たな動き
「ふぁーあ、朝から講義とかありえないんですけどぉ」
エクセルがあくびした。
「何あくびしてんだよ、一番最初に寝たのお前の癖に」
「んー、俺はなぁ、ゆうべいちばんパワーつかったからつかれてんだよぉ」
「パワー使ったのか、そうかそうか、あはは」
少々寝ぼけている彼を見て、僕はくすりと笑った。
僕たちは、朝から『魔術講座』2回目が始まる知らせを聞いていた。
朝食を食べてる間、そう放送があったときはびっくりした。
だから教室へ向かうため、今こうして廊下を歩いているというわけだ。
「あ、おはようございます」
正面にラメルが現れた。
「おーっすラメルちゃーん」
「やぁラメル、おはよう」
「おはよう」
そういえばラメルとは、昨日の講義から、話していなかった。
講義が終わってから話そうと思っていたら、いなくなっていたのだ。
「あ、ラメル。この前はどうもありがとね」
僕はまずはとりあえず、お礼を言った。
「え、いえいえ、私は何もできなくて。そんな風にいわれると、恥ずかしいです……」
ラメルは僕と目を合わせなかった。
「来てくれただけでもありがたいのさ」
「そうなんでしょうか……」
そんなときだった。
「なーにやってんのですか、ラ・メ・ル・じょ・う!」
ラメルの肩によりかかるように、女の子が現れた。
「あっ、クリス先輩っ!」
「気を抜いちゃ、だめだぞ? あれれぇ、ひょっとしてその金髪のコに、ヒトメボレしちゃったのかなぁ~?」
「いえ……そんなことないですよお」
なんだ?この人?
女の子向けの隊員服を着て、髪は緑のロングヘアーだった。背中まで伸びていて、すごくふわふわしていた。よく見ると、花の髪飾りをつけていた。
年齢は多分、僕と同じかやや上か……。なんか少し違和感があるような気がしたが、気のせいだろう。
とても肌が白く、言いにくいけど……とても端正な顔立ちをしていた。
「えっと……あなたは?」
「ボク? ボクはクリスティーだよ! クリスって呼んでね!」
「失礼ですが、所属はどちらですか?」
「マジョリティの医療班と後衛部隊両方だよー!」
「り、両方!?」
マジョリティに所属してる時点で、相当できる人だ。ましてや医療班と後衛部隊…魔術のエキスパートともいえる存在だった。
この組織は、どうしてこう……こんなに……見かけで判断できない人がいるんだ。
「すっげぇな、そりゃあ」
「信じられないです」
2人も驚いた様子だった。
「へへーんどうだ。すごいだろう」
クリスティーさんは鼻をこすった。
「かくいうキミたちは何者だい?」
「僕はスタン、そこにいる眠そうなのがエクセル、そしてワイヤーです」
「どうもぉ」
「おはようございますクリスさん」
2人はおじぎをした。
「おぉ、キミがスタン・ハーライト氏かねえ?」
クリスさんは僕のフルネームを知っていた。
「え?は、はい、そうですけど」
「シルク嬢が呼んでいたよん」
「え、シルクさんが?」
「そうだよん。ボクはカノジョに『スタン・ハーライトを探してきてちょうだい!!』って言われたんだよん」
シルクさんが、僕に用があるだって?
「用件は何かおっしゃっていましたか?」
「用件……それは言っていなかったかなぁ? 言ってなかったよね?」
「いや、僕が聞いてるんですけど」
「まぁいいから、行ってきてあげてくれ」
「はぁ、わかりました。どちらへ向かえばいいのですか?」
「うーんと、たいちょーしつ!」
「隊長室、ですか……!?」
ちょっと待てよ。隊長室というと、シルクさんじゃなくて――
「それって、剣士隊長の部屋じゃ……」
「あぁ、そうだそうだ」
やっぱり、用件があるのはシルクさんだけじゃなくて……
「レックス氏も呼んでたのを忘れてたわ」
レックスさんまで僕に用件が?
何か悪いことをしたか? 僕が? そうか、夜更かしの件? いやでも、それだったら3人いっぺんに呼ばれるはずだし……
「いつ頃行けば良いのですか?」
「すぐ」
「え?」
急用だというのか?
「わ、わかりました、すぐ向かいます。エクセル、ワイヤー、ラメル、またね」
「おぉ~」
「すぐ戻ってこいよ」
「ス、スタンくん……」
「またあおうなー、スタン~」
僕は見当もつかぬまま、独り隊長室に向かって走った。