17.発見
「才能ねぇ……」
ワイヤーが呟いた。
「才能って言葉と無縁で育ったもんだから、いまいちよくわからないや」
いったいどんな生活してたんだよ。
僕たちは、シルクさんの「魔術講座」1回目を終えた。
そして、夕食を食べ自分たちの部屋に戻り、ようやく、いつもより長かった1日が終わろうとしていた。
僕らはベットの上に座っていた。
「どんな環境で育ったの?」
「あぁそうだな、話してなかったっけ。僕の家は一応、貴族と血縁があるとかなんとかいって、それなりに資産はある家庭らしいんだ。生活に必要なことは、基本的に家の人がやってくれてた」
「お金持ちなんだね」
「よくそう言われる。けどな、何でもやってくれちまうってのは、逆に言えば俺に何もさせてくれないことになる。このままじゃぁ、外に出たとき何もできない男に育っちまうって僕は思った」
「それで、ブレイバーに?」
「うん」
ワイヤーは深くうなずいた。
「ふーん、俺とは真逆だな」
エクセルがベットに横になったまま言った。
「俺は家が貧乏でよぉ、金を稼がなくちゃいけなくなってよ。それでさ」
「なぁ、スタンはどうなんだ?」
「え?」
いきなりの質問に僕は少し動揺した。
「えっとね……僕は、ブレイバーになるきっかけがあったんだよ」
「きっかけ?」
「うん。昔……良くは覚えてないんだけど、命を落としそうになったらしいんだ」
「ほう」
「僕の家が火事にあったらしい。幼い僕は逃げ切れず、燃える家に取り残された。そんな時、死にかけている僕を助けてくれたのが、ブレイバーだったんだって。そうおじいちゃんが言ってた。だから僕は、命を助けてくれたお礼として、ブレイバーを目指した」
「すごいな。生計を立てるためでなく、誰かに指図されたわけでもない……」
「うん、格好良いと思った。そんな仕事に就きたいと思ったんだ」
皆が皆、違う目標を持ってブレイバーになろうとしている。そんなことを僕は実感した。
「そういやさ、寝る前にちょっと魔術の練習しないか?」
エクセルが提案した。
「夜更かしは良くないよー、明日起きれなくなるよ」
「それに寒いだろ」
ワイヤーの言うとおりだった。今は秋だ。まだ昼間は暑い日もあるが、夜になれば大抵冷え込む季節である。
「大丈夫だって、持ってきてやるから」
エクセルは立ち上がった。
「うーん、まぁいいか。なぁスタン、お前はどうだ?」
「うん、まぁ、復習ってことでいいかな」
「……」
「…………」
「………………」
「ああ、もう! なんで揺れることすらしねぇんだよ!」
エクセルはコップを乱暴にに置いた。
「そう簡単にできるわけないんだよ」
「まぁ、こうだとは思ったけどよ」
どうしてだろう。
どうしてコップの水は、びくともしないんだろう。
僕は黙って、コップの水を眺めていた。
金髪の少年、スタン・ハーライトの顔が、そこには映りこんでいた。
「うー寒い。やっぱり冷水はまずかったかなぁ」
「まずかったよ。だからいったじゃん」
「でもこれしか用意できなかったんだよ。俺らにお湯くれるとも思えないし」
「だよなあ」
突如、僕は身震いした。
「あぁ、もう寒くて我慢できない。このお湯飲んじゃえ」
2人が突然、こっちを向いた。
「お湯?」
「おい、スタン、今何飲むって言った?」
「え?お湯を飲むって……」
だって寒いじゃん。飲めばきっと、あったかくなる。
「お前正気か?」
エクセルが驚いた様子で言った。
「え?」
「だってよぉ、俺が持ってきたのは単なる水だ。しかもとびきり冷えたの」
「僕が持ってるものも、確かに冷水だ。お前が持ってるのがお湯なはずがないんだよ」
「えぇ~?」
「ちょっとよこせ」
エクセルが僕の持っていたコップをとった。
「なに!?」
「どうしたのさ、エクセル!」
「おかしい……確かに渡した時は水だったのに、お湯になってやがる……しかもこんなの、手に持ってただけじゃ到底できない熱さだ……」
「ど、どういうことだ?」
僕にもわからない。
「あ、そうか!」
ワイヤーが何か思いついたようだ。
「お前、これもってる時『寒い』とか思ってたか?」
「う、うん……」
「お前、これ魔術だよ! 寒い心が、コップの水に熱を与えたんじゃないか!?」
嘘だろ。水を揺らそうとしていたら、別の方向で魔術を出したというのか。
「そ、そうなのかなぁ…」
「何はともあれ、お前すげぇな。『熱を与える能力』が得意ってことだろ?」
エクセルが眠そうに言った。
「でも、これが魔術って確信はあるの?」
僕はワイヤーに聞いた。
「いや、単なる僕の考えだから」
「明日ホワイタビー先生にでも見てもらえばいーんじゃねぇの?ふぁぁーあ」
エクセルはあくびした。
「もう遅いから、寝ることにしようか」
「そうだね」
「……」
「あれ?エクセル?」
「どうしたの?」
「…………ぐー」
エクセルは横になり、目を覚ます様子はなかった。
「あはは……じゃぁ、僕たちも寝ようか」
「そ、そうだね」
「おやすみ、スタン」
「おやすみなさい」
僕は部屋の明かりを消した。