表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BRAVER-大会編-(前)  作者: Tommy
第2章―魔術大特訓―
15/37

15.心の力

「さて、話はここまでよ。ぐだぐだ話してもしょうがないから、早速あなた達の力を試させてもらうわよ」

 シルクさんは気合を入れ直した。

「どうやってですか?」

「すぐに分かるわ」

 僕たちが戦力として用いることになる「魔術」。それは人間の「心」が大きく関わっている。

 しかし、その”心の力”をいかにして試すというのだろう。

 すると、シルクさんは、大きく息を吸った。


「プリティーガールズ!」

 そう言った途端、部屋の扉が開き、ホントに女の子が出てきた。しかも1人じゃない。


「彼女たちは、ブレイバー医師団の子たちよ。今日はちょっと用意するものがあるから、手伝ってもらったのよ。あ、ちゃんと治療室に当番の子はいるから安心してね」

 心配するのはそこじゃないです、先生。

 白衣のような隊員服を着た彼女らは、何か手に持っていた。それはどうやらコップのようだ。中には液体が入っているみたいだが、それが何かはわからない。

 女の子たちは、治療を施すかの如く、僕たちにコップを、丁寧に配り始めた。

「ごゆっくりどうぞー」

「レストランか、ここは」

 あちこちで、そんなやりとりがされていた。


 僕のところには、茶色いショートの女の子が来た。結構幼さを感じる印象だ。僕よりも年下かもしれない、と思うほどだ。

「あ、ご、ごぶさたしてますスタン君」

 その子は僕を見た途端、一礼し、目の前にコップを置いた。

「ど、どうも……ってあれ? 前に会ったこと、ありましたっけ?」

 残念だが、僕はこの子と話した記憶もないし、顔を見た記憶もない。

「あぁ、そういやお前が会うのは初めてだったか、その子はラメルちゃんだ」

 エクセルが間に入って弁解した。

「ラメル?」

「はい、4日前に、私があなた様の治療を担当致しました」

「へぇ、そうだったのか!その時はどうもありがとう!よく知らないけど」

「覚えてなかったのも無理はないですね……あの時は危険日でしたから」

「危険日?」

「あぁっ、そういうことじゃなくてですね、えーっ……と……」

「ぜんっぜん話がかみ合ってねぇ」

「天然バーサス天然。奇跡だな、こりゃ」

 隣の2人がよくわかんないことを言っていた。

 とにかく、ラメルとは後ででも話すことにしよう。


 んで、ここに置かれた謎の液体。これをどうしようというのか。

 答えはすぐに出た。

「……うし、さてみんな、コップは配られたかな? じゃあ説明するよー」

 シルクさんは自分の机にあるコップを持った。


「はーい、ここにコップがありまーす、種も仕掛けもございませーん」

 僕はちょっと気になって、コップを手に持ってみたが、別になんの変哲もない普通のコップだった。

「そしてぇ~? このコップの中には、液体が入っています。じゃかじゃかじゃーん! ここで問題! このコップの中に入ってる液体とは、なんでしょうか?」

 中に入っているものは、無色透明の液体だった。とくに臭いもしないし、息を吹きかけても変色しない。てことは……そうか!

「正解は、ただのお水です!」

 やった、あたったぞ! ……全然嬉しくないや。

「では、このお水を使って何をするかなんですが……その前に、心意気を話しておきましょう」

シルクさんはコップを机の上に置いた。

「まず、“『魔術』たるもの、習得するに難事あるは然るべきことなり! 強き心の技、数多の修行や努めをなしてこそ得るもの!”ってことを覚えといて」

 ここにきて初めて、シルクさんがかっこよく見えた。一体誰の言葉なんだろう。

「ちなみに今考えました」

「あらら」

「ま、要するに何が言いたいかっていうと、これほど重要なものなんだから、簡単に使えるようにはなれないってこと。だから練習あるのみ。しばらくは努力してもらうわ」

「具体的に、何をするんですか?」

 シルクさんの言葉から出たものは、新米の僕らには衝撃的なものだった。


「この水を、心で動かしなさい!」

 こう、当然のように言い放ったからだ。


「ええーっ!?」

「なにぃ!?」

「な、なんだってェーッ!?」

「なによ、これでも基礎中の基礎なのよ? 心で念じて、水を揺らしてみなさい」

「といったってねぇ……」

「できるわけ……」

「あら、そんなこと考えてたら一生できっこないわよ。さっきも言ったけど、努力しなさい努力!」



 それから30分ほど経っただろうか。

 女の子たちは皆いなくなって、教習室には緊張した空気がただよっていた。

 僕はコップとにらめっこしていた。当然の結果ではあるが。一体魔術なんて、こんなことで出来るようになるのか?

 それとも、手を使って力を送り込む必要があるのか?


 手をかざし、念じてみた。水よ、揺れてくれぇ、頼むよぉ。飲まないから、飲まないから!


「おお、揺れたぞ!」


 揺れたのは僕じゃなかった。後ろにいた、悪ぶってる奴だ。


 僕たちは驚いて後ろを振り向いた。

 髪は逆立ち、トゲトゲと尖っている。鋭い彼の目からは、威圧感を感じた。黒い隊員服が、一層悪っぽさを引き立たせる。

「おお、どれどれ。君はサイス君か」

 シルクさんが、僕を通り過ぎて、そいつのところまで行った。名前はサイスというらしい。

「へへへ、強く握って念じたら、水が揺れてよぉ、ついに出来た、って思ったね!」

「ふーん、じゃぁ、もっかいやってみて」

「いいぜ、何度でもやってやらあ、……水よ揺れろ!」

 サイスはコップを強く持ち、気合を入れ始めた。

「おおおっっ!」

 すると確かに、コップの中の水は揺れ始め、水が波打った。


 でもこれ、ちょっと怪しくないか?


「んー……」

 シルクさんは一度黙り込んで、一考してから口を開いた。

「残念だけど、それ手で揺らしてるわよ」

「えっ」

「心の流れをあなたから感じなかった。それは残念ながら、直接手で揺らしてるにすぎないわ。やり直しよ」

 シルクさんはあきれた様子で、真顔で言い放った。

「ま、マジかよ……」

 サイスは、少しうなだれていた。

「まぁ初日はこんなもんだと思ったわよ……ん?」

 シルクさんが、また何か違和感を覚えたようだ。

「誰かが、こんなことできるわけない――って思ったようね。……そうだ!」

 思いついた節があるらしく、彼女は定位置に戻ると、水の入ったコップを取り出し、机に置いた。

「こういうのは、例を見せたほうがいいわよね!」

 言われてみれば、シルクさんが、本当に”力”を持っているのか、まだ明らかになっていない。ちょっと疑う心を持っている人がいるのも無理はなかったな。

「じゃぁ、見てなさいよ」

 彼女は、両手を背中にまわし、コップをじっと見つめはじめた。


 すると、目の前にあったコップが、たしかに揺れ始めた。しかも、驚くべきことに、さっき見たサイスの揺らしたものよりも、はるかに大きく揺れ、チャポン、チャポンという音を立て始めたのだ。


「こんな感じよ。伝わってきた? ――何よ、まだ疑う子がいるの? 疑り深いわね。いいわよ、せっかくだから、もっと面白いものを見せてあげるわ!」

シルクさんはムキになったように、両手をコップにかざした。

すると……


「おお!?」

「み、水が……」

「て、手の形になったぞ……!」


 コップの中にまるで人がいるかのように、その手は滑らかな動きをした。しかし色が透けていたので、水であることに間違いはなかった。

 水の手は、余裕のピースサインをした。

「ふふ、わかってくれた?あなたたちもがんばりなさいよ!!じゃあ、今日はここまで、さよなら!」


 そして、何事もなかったかのように、シルクさんはとっととその場を後にした。


 水の手は、普通の水に戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ