13.出発
あの事件。悪魔が、僕たちの町に襲来した事件から、4日が経過した。
僕はあの日、寮の前に降り立った悪魔たちを倒すため、下に降りて戦った。
しかし“炎天砲”ですら倒す願いは叶わず、僕だけ取り残されて、あいつらは僕に一斉に襲いかかって来た。
それ以降のことは、全く覚えていない。
目が覚めたとき、何が起きたのか、よくわからなかった。
そこは、寮の中だった。36号室。僕の部屋だ。
目の前には、エクセルとワイヤーがいる。
「スタン、お目覚めですかい」
「ようやく起きたのか。心配したんだよ」
2人が、何故か優しく話しかけてくれた。
「え、どうなってるの……?」
僕は混乱していた。わけが分からない。なぜ、いつの間にここにいるのか。
「そうだ、悪魔はどうなったの!? 死んだの僕!?」
「はぁ? 何言ってるんすかぁ?」
「君、今僕たちと喋ってるじゃん。生きてるに決まってるさ」
「そ、そうだよね! じゃぁ、一体誰が悪魔を―――」
そのとき、あの人の顔が思い浮かんだ。
「そうか! レックスさんが! レックスさんが、助けに来てくれたんだね!」
流石はブレイバー最強の戦士だ!
「あ、あぁ……」
「んまぁ、そんなところだね」
「あはっ、やっぱりかぁ! すごいや、あんな人になりたい!」
気持ちが表面に出ていた。
「まぁ、とにかく……さっきは、ごめん」
ワイヤーが頭を下げた。
「お前があんなに強いとは思わなかったんだよ」
エクセルが付け加えた。
「え? 僕何もしてないよ?」
あの時、2人はただ転んだだけだ。僕は何もしていない。
「でも、分かってくれたならいいや。これからよろしくね。エクセル、ワイヤー。仲良くやろう」
「あぁ」
「うん」
2人は声をそろえて答えた。
「スタン!!」
「うぉぅっ!?」
突然、僕を呼ぶ声がした。
「なんだよ、いきなり!」
「なんだよ、じゃねーっつーの!もう順番だぞ!」
エクセルがあきれた調子で指をさしていた。
指差す方向には、カフェテリアのカウンターがあった。
「お客さん、何も買わないの?」
「えっと、ああ、じゃあこのパンをひとつ……」
「オケーセンキュー。お客さん小食だね」
後ろで、多くの人の視線を感じた。
「やれやれ、ボーっとしてるからさ」
ワイヤーが肩をすくめた。
「全く、まだこの行列には慣れないなぁ」
エクセルがハンバーガーをほおばる。
「僕たちは新米だからね」
ワイヤーはカレーを食べる。
「うん」
僕は食パンをかじる。
4日も経つと、大分周りの空気も落ち着いた。僕たちの食う気も普通に起きた。
カフェテリアは、ブレイバーの食事の場であり、唯一の休息の場だ。
ここにいるとき以外は、いろいろ準備とか、復旧作業とか手伝わされて、新米なのに容赦は無かった。
しかし、その甲斐あってか、予定より早く復旧作業は終わったようだ。
隊員たちの怪我もほとんど治ったようだし、ようやく僕らは『魔術』を教わることとなる。
シルクさんから「今日の午後から、ビシバシ教えていくわよ!」と言われたとき、嬉しくもあり、悲しくもあったことを思い出す。
「ねぇ、魔術って、結局何なんだろうね?」
僕はパン耳をかじりながら聞いてみた。
「さぁな」
「知らないな」
二人は食べるのに夢中のようだ。
「うーん……じゃぁ、シルクさんってどんな人なのかな?」
「さぁな」
「わからない」
返事は大して変わらなかった。
「そんなこと、今日になれば分かることだろ」
そう言いってから、エクセルはコーラを飲んだ。
「そう急かすなよ」
ワイヤーがオレンジジュースを飲みながら言った。
僕は水を飲んで、……それ以上は何も言わないことにした。
「さてと、食った食った。教習室に向かうか」
「うん、寝ないようにしないとね」
2人とも、気楽でいいなあ。
心の叫びとともに腹が鳴った。
教習室に着いた。
そこにはは長机と椅子が並べてあり、それとホワイトボードがあった。所謂普通の会議室だった。
時間がちょっと早かったのか、誰もいない。
「えーっと、どこに座ろうか」
「真ん中らへんでいいんじゃね?」
「じゃねじゃね?」
僕たちは真ん中らへんにすわった。
「……あれ、何かボードに書いてあるぞ」
見つけたのはエクセルだった。
「ほんとだ」
「なんだろ」
ホワイトボードに小さく、丸っこい字で書いてあった。
座って待っててね>▽<b♪ シルク
「なんだよこれ、ほんとにこんな人に教わるってのか?」
「気持ち悪い……」
「……」
僕は何も言えなかった。こういう人に限って実はすごかったりするんだよな。
「と、とりあえず座って待とうよ」
「そうだな」
「うん……」
この時は2人とも、シルクさんのことをナメていた。