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BRAVER-大会編-(前)  作者: Tommy
第1章―目覚め―
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12.葛藤

「シルク、どこに行ってたんだ」


「聞きたいのはこっちよ。なんであの時、いなかったわけ?」


 レックスは、ホールでシルクを見つけた。

彼がホールに行く経緯(いきさつ)はこうである。


 彼は36号室を後にして、他の隊員を探すことにした。

 医療班のラメルという少女がいるということは、シルクも帰ってきてるはずだ。

 彼女に会って、どうしていなかったのか、聞き出す必要がある。


 廊下を歩いていると、今日の昼に見たばかりの大男がこちらに走ってきた。

 えっさ、ほいさという調子で、夜だというのに大きな足音をたてながら。あんなに体格の大きい男が夜中に走ってきたら、それだけで恐怖を感じる。


「ぜぇ、はぁ……ち、町民の安全、確保して参りました」

 息を切らしながら、杉野は言った。


「杉野、お前は殺人課なんだろ? どうしてお前が出てくるんだ」

 レックスは尋ねる。


「はい、ピースはとても人口が多いですから、ここら周囲の住民の方々を避難させるだけでも時間がかかります。ですので、警察が総力を上げて、というわけなんです。今回の件は、前例が無いですし」

 呼吸が整ったのか、杉野は、少し声を小さくして答えた。


「ですが、今回はブレイバーの方々も案内に手伝って下さったので、大変助かりました。誠に感謝いたします。ありがとうございました」

 杉野は深々と、日本人らしい礼をした。


「本来の役目を無視して、な」

 レックスは皮肉をもって返答した。


「どういうことですか?」


「俺が現場に駆けつけたとき、本部はほとんど隊員が残っていなかった。二桁いないんだぞ?悪魔を撃退するにしろ倒すにしろ、俺たちの役目だ。それをあやうく果たせないどころだっだ」


「なんと……」


「杉野、医療班長のシルクを見ていないか?」


「はい、シルク様は現在ホールで寮にいた隊員を手当てしております」


「わかった。すまない」


 そしてレックスは、ホールに向かったというわけである。



 ホールでは、怪我をした隊員たちが、手当てを受けている。

大きな怪我をした者もいるようだが、死者は出なかったそうだ。


 レックスはシルクに尋ねる。

「俺は、連絡を受けてすぐに本部に向かった。そしたらほとんど誰もいない。どういうことだ?」

シルクは、

「町の人を守ることが先決だと判断して、避難させに行ってたの。悪魔なんて、どう戦えばいいか分からないものに突っ込ませるなんて、理にかなってない」

と言った。


 今日レックスはストレスがたまっているので、怒りが自然に出てしまっていた。

「理にかなってない……? お前はブレイバーを何だと思っているんだ? 警察とは違うんだぞ? 警察とは違う役目を持っているじゃないか。『悪魔を倒す』っていうな。それすらできないんじゃ、俺たちはいったい何だ?」


ストレスがたまっているのは、レックスだけじゃなかった。

「あなたは強いからそう言えるんでしょ!? そんなことさせたら、新米たちの怪我が増えるだけよ!」


意見がどんどん対立していく。


「別に新米を先に行かせるほど俺は馬鹿じゃない! 命令を無視して勝手に突撃した奴が悪いと思っているらしいが、あいつらのしたことはブレイバーとしては間違ってない! お前らのありえない命令が、怪我人を増やしたんだぞ! 人命を優先する気持ちは分かるが、それはブレイバーの役目ではない! 本来の役目を思い出せシルク!」


「あなた正気!? ほんっと頭カタいわね!」


「挑戦する勇気は勇者(ブレイバー)には必要なんだ!」


「無理なことをさせないでよ、バカ!!」


「バカはお前だ! 俺たちの役目を全く分かってないじゃないか!!」


「――!」

「っ!」


 明らかに、怒りすぎた。二人は、同時にそう思った。


 自分の愚かさをレックスは嘆いた。

 ああ、果たしてここまで怒る必要があったのだろうか。


 シルクは自分のしたことがミスだと思い、悲しくなってきた。

 彼女の目からは、涙が溢れ出していた。ぐすっという悲しい音が、広いホールに響き渡る。

 怪我をしていた隊員たちが、二人の方向を見ている。シルクを自分たちが泣かせてしまったのだと思っていた。

 シルクは目を真っ赤にしながら言う。



「わからない、何が正しいのか、わからないよ……」


 立つ力がなくなり、座り込んでしまった。床が、少し濡れていた。


 自分の意見を押し付けすぎたとレックスは思った。

 彼女の言う通り、自分は頭が固い。ただ単に力が強いだけで、意外と短気な自分に嫌気をさしていた。


「シルク……」

 彼は座り込んだ彼女の元に寄って、頭に優しく触れてやった。



「何が正しいかなんて、神様しか知らないよ」



「レックス……」


「すまない、俺が悪かった……だから、泣かないでくれ……泣いていたら、これから先のことが、見えなくなっちまうだろ?」


「……うん」


「昔のことを思い出してしまったんだ……人命を優先しようとして、救えなかった命があったんだ……」


「え?」

 シルクはレックスの方に顔を向けた、頬にはまだ、涙がつたっていた。


「とにかく、これからしばらくの間、悪魔について、詳しく調べる必要がある」


「え、えぇ」

 聞いた言葉は気のせいだったのだろうか。とにかく、彼の言う通り、迫る脅威について、調べる必要がある。


 泣いてなんかいられない。怪我人の手当てを急ごう。


 新米のブレイバーに、いち早く魔術を教えるためにも。


 それが、自分の役目なのだから。


 教習担当の彼女は、焦りを感じていた。

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