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BRAVER-大会編-(前)  作者: Tommy
第1章―目覚め―
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11.苛立ち

「あ……あわわ……」

 エクセル、そしてワイヤー。2人の新米ブレイバー、元ビリコンは目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 彼らビリコンビの前に、世界最強のブレイバーが立っていたからだ。


 レックスは倒れたスタンを背負い、彼の泊まる部屋、36号室に向かった。そして、そこにいた彼らに、話を聞くことにした。


 まずレックスはスタンをベッドに下ろし、横たわらせた。

 そして、彼は話を始める。

「お前ら、こいつに頼り切っていたのか?なぜ下に降りてこなかった?」

 と、まず聞いた。

 2人は、

「い、いえ。……そういうわけじゃないんですけどぉ」

「は、はぁ。……き、きぜつしてた、もんで」

 緊張、畏怖、混乱。いくつもの心が入り組んでいて、彼らは上手く口が回らない。

「気絶?」レックスが聞く。

「は、はい。大会場で勝負してたら」

「その……彼に、凄い力でやられちゃいました」

 2人はその緊張した口で、必死に説明をする。

「勝負? 誰とだよ? そんなに強い相手だったのか?」

 まず勝手に大会場に入り、勝負をしていたことが悪いことなのだが、レックスはこの時はそこまで頭が回らなかったようだ。

「誰って、決まっているでしょう」

 エクセルはあわてた口調で言い、

「僕達が唯一勝てそうだった、そのピーナッツです」

 ワイヤーは横たわるスタンを指差しながら言った。

 あれほどの力のある少年に対し、なぜ勝算を持てたのだろうか。

「だがこいつは、俺達が初めて見る悪魔を倒す、相当の強さの持ち主だ。なんで勝てると思ったんだ? つか、ピーナッツってなんだよ」

 と、レックスは言った。


「ピーナッツってのは、そいつのことっすよ。こいつ、真上に投げたピーナッツ半分に切るのに三千六百二十八回もかかったんですよ」

 エクセルは説明した。

「そうです、僕達より全然できないダメダメ野郎のはずなのに、いざ勝負を挑んだらこれですよ」

 ワイヤーは付け加えた。


「どういうことだ……?」

 レックスは疑問を持つ。


「だってそいつ、始めの内はすっげえビビってたんすよ。んで、走り寄ったらいきなり眼の色変えて突っ込んできて、斬りかかってきたんすよ」

「ありゃもう殺す眼でしたよ。僕達はもう、余りの怖さにもう……」

 2人は交互にそう、スタンの『強さ』を語った。


「いったい何なんだ?」

 レックスは今日だけで、悩み事がたくさん出来てしまった。

 マイノリティ大会でのミッチェルの件といい、矛盾した新米隊員の強さといい、唐突に現れる変な男といい。


 レックスが色々考えていたそんな時、彼は自ら直接この部屋に出向いた理由を思い出した。


「お前ら、気絶したと言っていたが、奴が悪魔を戦っている姿は見たんだろう?」

 厳しい声で、彼は聞く。

「は、はい……」

 2人は口を揃えて答える。

「命を懸けて町を守るんじゃなかったのか?」

 レックスのこの言葉が、2人の心には相当刺さったようだ。

 話を続けようとしたとき、


「し、失礼しますっ!」


 と、急に大声で女が入ってきた。


 茶色の短い髪で、隊員服を着ている。といってもそれは医療班の物だった。年は、レックスよりは絶対若い。むしろ、部屋にいる新米たちと比べたら、同じ位、ひょっとしたらそれ以下かも知れない幼さを感じた。

 その女、少女隊員は、

「私、本日よりブレイバー医療班に配属されましたラメルという者ですっ! スタン隊員がお怪我をなさっていないか確認しに参りましたっ!」

 と、びしっと敬礼をしながら言った。目の前にいる人が誰だか気付かずに。


「ご苦労だった。スタンなら無事だ。手当てはいらん」

 レックスは話を遮られて、若干苛立ちがあるものの、新米だからやむを得ないと思い、そう言った。


 話していた相手が剣士隊長だと気付いたようで、ラメルは言った。

「……ふぇ? あっ! あ、あの……その……お、お取り込み中でしたか? えぁっと……それとも事後?」

「はぁ?」

「あ、あぁっ、いえ……そんなつもりで言ったわけじゃないんですよぉ」

「はぁ……残念ながらお取り込み中だ。せっかくだからお前も説教聞いてこい」

「は、はぅう」


 レックスはできることなら、この剣でこいつらをぶった斬ってやろうと思っていた。

 話を再開する。ラメルはちょこんと、座り込んでしまった。

「まずそこの2人、なぜ下に降りなかった? なぜすぐに加勢しようと思わなかった?」

 レックスは、エクセルとワイヤーに対してそう言った。

 エクセルは目を泳がせながら、

「えーっと、初見の敵なので慎重に、対処しようと、思ったのです」

 と言うと、ワイヤーも続いて、

「そうです、慎重に、ね」

 と言った。

「口では上手く誤魔化せてると思っているだろうが、『心』まではごまかせないぞ? お前らは分かっていないようだが、ブレイバーで最も重要なのは『心』なんだよ。つまり俺みたいな奴にとって、相手の心の変化を読み取ることなんて容易いことなんだ」

 レックスはそう言う。そして、

「お前らが思っていたことをそっくりそのまま答えてやろう。まずエクセルとやら、お前の思っていたことは『なんとか誤魔化せて俺超頭回るんですけどぉ!』で、ワイヤーとやら、お前の場合は『こいつにあわせりゃなんとかなるな、俺頭良いな、さすが俺!』だ!」

 と、きつく言い放った。

「うっ!」

「うげぇっ」

 図星だったようだ。


 レックスは論点がちょっとずれたことに気付き、一度咳払いをしてから、話を続けた。

「……少し話がずれたな。本題に戻ると、確かにお前らの言う『慎重に対処する』という考えは正しい。だがそれでは、一生まともなブレイバーにはなれん。一生、下っ端勇者様なだけだ」

 そう言うと、なぜかラメルがうつむいてしまった。肝心の2人は黙って聞いている。

「そんなお前らに対し、このスタンはどうだ? こんなにオンボロな錆びた剣で、悪魔を追っ払ったんだぞ?」

 ちょっと気に食わなかったエクセルとワイヤーは、反論をした。

「で、でも俺達でも時間を掛ければ対処できた気がします」

「そ、そうです、僕達でも」

「黙れ!! 戯言を抜かすなと何度言わせる! 心で語れ心で!」

「うぅ、はい……」

 やっぱりできなかった。

 鬱憤が溜まっていたのか、いきなり怒鳴りだしたレックスに2人は本当に何も考えられなくなった。狂乱者ベルセルクの通り名が無くても、名声が無くても、普通に怖い。


 レックスの怒りはまだ続く。

「百歩譲って貴様らに実力があるとしよう! そして貴様らの持つ剣!明らかに新品だ! ピカピカだよな!? それだけいいものを持っていてもだ! まだ貴様らには足りないものがあるんだ!」

「そ、それって何なんですか?」

「おい、女……ラメルとかいうの!」

「は、はいぃ!」

 いきなり呼ばれて、ラメルはびっくりした様子で返答した。

「ブレイバーの三つの掟、言ってみろ!」

「は、はい! え、えーっと、無駄な暴力はしない!」

「それと!」

「え、えーっと、正々堂々と戦うっ!」

「まだある、あとひとつっ!」

「はいぃっ! えーっと、命がけでっ!」

「そうだ、大いによろしい! お前達に足りないものは、町を守る心! つまり……」

「つ、つまり?」

「つ、つまり?」

 声を揃えて聞き返す2人に対してレックスは、


「『勇気』だ!」


 と言い放った。

「ゆ、勇気……ブレイバー……」

 ラメルはそれを聞いてぶつぶつ言っていた。

 レックスはようやく落ち着いたようで、

「この言葉、よく覚えておくことだ……」

 と言うと、最後に言い放つ。


「例え実力があろうと、例え良い武器を持とうと、戦いを挑んだ錆びた剣には勝てない、と」


 そう言い、36号室を後にした。

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