第十四話
「もぅ!何回乱入したんですか全く!」
「最初に負けたのは俺だから次のは決めさせてやるって」
「そういうことじゃないんですけど……」
やや怒った調子で歩き出す咲姫の後ろを歩いてついて行く。何故こいつがこんな風になっているかといえば咲姫に負けた瞬間に再び乱入を数回繰り返したからだ。何度目かで腕が疲れたのか勝利して後ろからジトッとした視線を感じながら終わらせた。
それからもかなりの種類のゲームをプレイした。
太鼓をたたく音楽ゲームでは。
「はあっ!?全良とかふざけんなよ鬼だぞこれ」
「せんぱいだって可五つだけじゃないですか、まあ自信あるって曲を選ばせてあげたからなんですけど~」
「くそ、次はお前が曲選ぶ番だぞ」
「は~い」
続いてゾンビを撃つシューティングゲームでは。
「せんぱいそっちばっか回復しすぎじゃないですか!?」
「うるせぇ!、俺の方が体力の減りが大きかったんだよ!」
「ちょっゾンビ来てます来てますって!」
「うおおあああ!」
GAME OVER
「……戦犯ですよ」
「……悪かったって」
そんな調子で続けていて俺が圧勝できるものがあった。
「オラッ!!」
「おぉ~せんぱい力強いですね」
「そうだろ、おっ今日のランキング四位だってよ!」
「えぇ~流石です!」
俺達が今やっているのはボクシンググローブをはめて思いっきり取り付けられた的を殴り力の強さを測るものだ。
俺の前に咲姫もやっていたのだがこのゲームはその華奢な身体通りの力しか発揮されていなかった。となると昼に引きずられたあれは何だったんだ?
ふと時計を見ると結構いい時間になっていた。これ以上ここにいたら補導されてしまうかもしれない、財布も結構軽くなったことだし今日はここまでにしとくか。
「そろそろいい時間だからもう帰るか?」
「……」
「咲姫?」
返事がなく不審に思い見て見るとどこか別の場所を見てボーっとしているようだった。
「大丈夫か?」
「……あっ、そうですね!もう結構使っちゃいましたし時間も時間ですしね!あっちょっと私お手洗い行ってきますね!」
「おっ、おう」
恥ずかしかったのか小走りでトイレに向かって行ってしまった。ふと先が見ていたであろう方向を見て見ると一つのクレーンゲームがあった。
「アレが欲しかったのか……?」
クレーンゲームの中身は抱きかかえられるほどのサイズのデフォルメ化された犬のぬいぐるみだった。咲姫の確か連絡先のトプ画がこんなだった気がする。
「……とってやるか」
成り行きで来ることになったとはいえ今まではこれほど白熱して勝敗を競うことはかなり久々だった。翔たちとは勝ち負けよりも楽しむことを目的としているからこんなになることはなかったので結構楽しめたのだ。お礼の一つとしてこれを渡してやろう。
「むっず……」
取ってやろうと一気に五百円を突っ込んだのはいいが六回とも動かすことは出来たが落とすことまでは出来なかった。咲姫が戻ってくるまでは後数分、間に合うか……?
「くっ……」
もう二千円が飛んだやっぱりクレーンゲームは恐ろしすぎる。こうなると思ったから普段もやらずに今日の咲姫との勝負にも使用しなかったというのに。
次いで五百円を入れて動かし続けるも五回連続で取ることは出来なかった。
「……!もう帰ってくるのかよ」
一度落ち着こうと周りを見渡すと遠くのトイレの出入り口から咲姫が丁度出てくるのが見えた。まだ距離は離れてるからすぐには来ないだろうけどバレずにやるならこれがラストチャンスだろう。
「頼む……!」
落ちろという一心を込めてアームを動かす。アームはゆっくりと降りていきぬいぐるみを捕らえ、転がすようにして落とすことに成功した。
「おっし!」
取れたうれしさから小さくガッツポーズをした。クレーンゲームは難しい癖に取れた時の嬉しさが半端ない。中毒者が出るわけだ。
「お待たせしましたせんぱい……あれ?何やってたんですか?」
「おお丁度いい」
落としたところで咲姫が合流しなおした。やっぱり距離的に一回が限界だったな、取れたからいいんだけど。
「ほらこれ」
「えっこれって……」
取り出し口から出したぬいぐるみを押し付けるように渡した。
「やる、今日は久しぶりにゲーセンで熱中できたからそのお礼とでも思ってくれ」
「……貰っていいんですか?」
「そういってるだろ」
「……ありがとうございます!すごく、うれしいです!」
ぬいぐるみをギュッと抱きながら浮かべたその顔はいつものニヤニヤとしたものではなくまぶしいほどきれいな笑顔だった。
ごめん、眠いのちょっと待ってて




