第十三話
「せんぱ~い来ましたよ~」
放課後になるとすぐに昼にも見た光景が繰り返されたかのように咲姫が教室に来た。
「それじゃあ行ってくるわ」
「また明日な~」
「バイバーイ」
二人とあいさつをかわすと咲姫が待っている教室の前方の扉の方へ向かい合流した。
「二時間ぶりですねせんぱい」
「そうだな」
「じゃあ行きましょう!」
歩き始めた咲姫に追いついて横並びになるようになって歩く。
「実際一緒に帰ろうといったけどどこか行くつもりなのか?」
「あ~……そういうのは考えてなかったですね。とりあえずせんぱいと一緒に帰ろうってことしか頭にありませんでした。どこか行きたいところとかあります?」
「う~ん……」
行きたいところか……俺自身外出しないから特殊な場所はほとんど知らないんだがパッと思いつくところといえばファミレスやゲーセン……ゲーセン?
「あっそれじゃあゲーセン行こうぜ」
「ゲームセンターですか?いいですけどこれまたどうしてです?」
「お前に勝とうかなと」
「うわ~もう隠しもしなくなりましたね。でも私もゲームセンターはそこそこ行く方ですよ?」
「それは俺も一緒だから条件はイーブンだろ」
それに何かしらで負けたとしてもゲーセンなら種類があるから俺が勝てる奴だってあるだろう。
「せんぱいの考えてることはわかりますが例え一個だけ勝てたとしてそれは勝ったと言えるんでしょうか」
「……言えるだろ」
「せんぱいがいいならいいですが」
一瞬俺も迷ったが一応自分を納得させるといったん咲姫とは昇降口で別れ、それぞれ靴を履いたら合流してゲーセンに向かった。ちなみに行くのは昨日言ったのと同じ場所だ。
「よーしそれじゃあ何から遊びましょうか」
「ちょっと待て、百円玉があんまりないから両替してくる」
「あっ、私もあんまりないかもです。途中で崩しに行くのも面倒なので私も両替しちゃいますね」
ゲーセンに入った俺たちがまず向かったのは両替機だった。一か所に二つの両替機があって二人とも待つことなくすぐに金を崩すことができた。
「えっ……先輩いくら両替機に突っ込んでるんですか……」
「一万円だが?」
「そんなに使います……?」
「使うだろ」
だからそんな目を俺に向けるな。
「さあ両替も終わったことだしさっそく遊びましょう!」
「そうだな」
俺はすっかり小銭で重くなった財布をもってゲーセンに繰り出した。
「どれからやる?」
「ん~……先輩がやりたいのが特にないならあれやりましょう!」
そう言って咲姫が指さしたのは俗にいう格ゲーだった。幸い今は誰もプレイしていなくてガラガラだった。
「よしいいだろう」
「やったぁ!じゃあ行きましょう!」
咲姫が百円を入れて始めたところで俺も百円を入れて乱入をする。
「せんぱ~い!」
「どうした?」
「ゲームセンターって結構種類あるんで遊ぶ奴は勝ったほうがその都度決めるってことでどうです?」
「いいぞ」
「やった、これで私の好きなゲームをずっと遊べますね!」
「……」
よし、絶対負けないわ。勝ったほうが次のゲームを選べるのは納得したが最後の一言は許せない、珍しく煽ってこないかと思ったら遠回しに全勝しますって言ってやがる。
翔にお前とはもうやらないと言わせ、あの香織に睨まれた実力みしてやる!キャラクター選択で俺のメインキャラを選択する。
さあ来い咲姫。実力の差を見してやる。
ROUND1
お互いに弱攻撃を、防御を繰り返し隙を見つけてはコンボを入れあった。残り時間が半分を切った時咲姫の体力ゲージが赤に突入した。勝てる!まだ俺の体力は黄色、勝機は全然ある……。
「よっしゃっ!」
残り十秒になった時にうまいこと簡単なコンボが入り体力ゲージを吹き飛ばした。画面に大きく表れたK.Oの文字と共に俺が一ラウンド取った証の丸の一つに光が付いた。
このゲームは咲姫に二ラウンド取った方が勝者になる。あと一回勝てば俺の勝ちだ。
「あと一ラウンド取れば俺の勝ちだな」
姿はゲーム機で見えないがたまには俺が言ってやろうと少し勝ち誇って言う。珍しく返事は帰ってこずに訝しみながらも次のラウンドが始まった。
ROUND2
さっきはお互い様子見だったが今回の咲姫は攻勢的でこっちは防戦一方になってしまった。なおかつカウンターをうまく使ってきて体力を削るつもりが逆にこっちが削られることが多くなった。
「くっそ……!」
こっちの攻撃のほとんどが返される。それにくわえ隙を見ては強攻撃を入れてきたりもしていて残り三十秒の中かなりの劣勢に立たされていた。
一か八か……。入力が難しい必殺技のコマンドを決めれば勝てるかもしれない。ただミスしたら確実な敗北となるだろう。
ただそれをしなければ勝つことは出来ないだろうしやるしかないか……。咲姫のキャラから一瞬距離を取りそのコマンドを打とうとして……俺の目の前にはK.Oの文字と自分のキャラが倒れている姿が目に入った。
くっそやっぱりミスったか、格ゲー自体そんなにやってない事と遊ぶにしても翔たちだけだったから使おうとも思わなくて練習してなかったのが災いした。
「あと一ラウンド取れば私の勝ちですね~」
ゲーセン特有の騒音の中に混じって一ラウンド目が終わった時の俺が言った言葉を意趣返しかのように言われる。
……だが次のラウンドを取れば俺の勝ちだ。
ROUND3
おかしい……全然当たらない。もう俺の体力ゲージは黄色になったというのに咲姫の方は少し削られただけだ。くそ今回は余裕で負けるかもしれない。
「……今かっ!」
防御を繰り返していると一瞬隙ができて攻めるならここしかない。一気に攻撃を決めようとスティックとボタンを動かしたその時。
「なっ、必殺技……!」
咲姫が使ってるキャラの必殺技コマンドもかなり珍しいというのに一発で決めてきやがった。当然少なくなっていた体力で必殺技を食らった俺のキャラは倒れ、これで合計二ラウンド取られたためゲームが終わってしまった。
「勝ちましたよせんぱ~い、一ラウンド目はあんなに勝ち誇ってたのに残念でしたね~。あっNPCとの闘い負けちゃうんで待っててください」
顔は見えないがニヤニヤしている咲姫の顔が目に浮かんだ。気づいたら俺は財布から再び百円を取り出しゲーム機に突っ込んでいた。




