第8話 魔法剣士?
短めです。
クアラの町を出るには、東西にある関所を通らなければならない。出るときは何も必要ないが、入るときには身分証が必要となる。身分を証明できるものが何もない場合には、犯罪歴がないかなどを検査してから仮の身分証を作ることができる。
……らしい。
「以上で説明は終わりだ。他に何か質問は?」
「ないです。なので外に――」
「よし、それじゃあ保護者の人が一緒のときに外へ出ような」
「いや、だから……」
僕達は今、その関所で足止めをくらっていた。理由は簡単、僕と師匠の見た目が弱そうだからだろう。
「さすがに姉弟だけで外に出るのは危ないぞ?」
「私の弟子を鍛えるためだ。さっさと開けろ」
「はいはい、冒険ごっこは町の中でやろうな?」
僕達を全く相手にする気ないな、このおじさん。師匠の我慢もそろそろ限界だろうし、ここは一度戻るしかないか。
「ルナもトオルもこんなところで何をしてるんだ?」
声をした方を振り向くと、レイさんが大きな袋を抱えて立っていた。
保護者、確保。
事情を説明すると、レイさんは「なるほど」と呟きながら関所のおじさんへ視線を移した。
おじさんはこれでもかと腰を曲げ、深々とお辞儀をしている。
態度変わりすぎじゃない?
「まぁ、こいつらの面倒は俺が見るから。な?」
「はい! 山斬り様がいらっしゃれば魔物など赤子も同然! こんなことを言う意味もないかもしれませんが、気をつけて行ってらっしゃいませ!」
おじさんの変わり身の早さにポカーンとしていた僕達に、レイさんが首をかしげた。
「や……山斬り?」
「お前、そんなに有名なのか?」
「あんまりそれで呼ばないでくれ。通り名で呼ばれると恥ずかしいんだ」
照れくさそうに頬をかくレイさんに、今度はこっちが首をかしげる。
「なんで山斬りって呼ばれてるんですか?」
「それはまぁ……見れば分かるさ」
レイさんはそう言って、背負っていた大剣を両手で構えた。
おじさんが「おぉ、山斬り様の魔法が生で見られるなんて」とはしゃいでいるが、僕達からしたら感激する要素が全くない。
「ていうか魔法? 剣なのに?」
僕の呟きに、レイさんがニヤリと笑った。
「さぁ二人とも、驚愕しろ」
次の瞬間、クアラの町が影に包まれた。何の音も無く、唐突に。
きっと町の人達は驚いているだろう。突然太陽が見えなくなったんだから。
僕達だってビックリだ。
目の前に、大きすぎて切っ先が見えないほどの剣がそびえ立っているんだから。
否、その剣をレイさんが持っているのだ。さすがに師匠も目を見開いている。師匠のこんな顔初めて見たよ。
「どうだ、これが俺だけの魔法《質量保存》だ」
イタズラが成功したかのような笑顔を浮かべるレイさん。
「ふぅぅぅぅ!! その剣は山をも両断し、時には味方を守る鉄壁の盾となる! これが山斬り様の最強の固有魔法だ!」
丁寧に解説をありがとう、おじさん。僕の中で関所のおじさんは解説キャラとして定着した瞬間だった。
レイさんの剣はしばらくすると縮んでいき、元の大きさに戻ってしまった。どうやら時間制限があるようで、本人は少し物足りなさそうな顔をしている。
しかし、数秒だけでもあの大きさは敵からしたら脅威だろう。あんな剣、一振りで軍隊を壊滅できるよ?
いや何が凄いって、あの剣を持っていられるレイさんが凄いんだ。そりゃ有名にもなるわ。
「質量保存ってことは、大きくしたらそれだけ剣の強度は弱くなるのか?」
師匠が口を開いた。その言葉を聞いて、レイさんは驚いた素振りを見せる。
「質量保存の意味を知っていたのはルナが初めてだ。その通り、大きくすればするほど脆くなる。逆に小さくすると硬くなるんだ」
あ、そうか、重さ自体は変わらないのか。
そもそも師匠がそんな難しい言葉を知っていたのか、と感心しながら進んでいると、先を歩いていたレイさんが少し離れた場所にある森を指差した。
「あそこが西の森だ。冒険初心者には丁度いい練習場所だな」
「ありがとうございます。レイさん」
「困ったときはお互い様さ。そうだ、トオルが修行するんだろ? 俺が色々教えてやろうか?」
僕は隣にいる師匠をチラリと見た。視線に気がついたのか、ため息をつきながら口を開く。
「レイ。これから見ることは誰にも言わないと約束できるか?」
「な、なんだよ急に。秘密にしろって言うなら誰にも喋らねえよ」
「……よし、正直困っていたんだ。強くなる方法は教えられるが、冒険者として必要な知識は俺には教えられないから」
「な、なぁ。お前ら何を隠してるんだ?」
「それはまぁ……見てからのお楽しみだ」
師匠のドヤ顔が炸裂している。
「ってことでトオル、さっさと適当な魔物見つけて倒してしまえ!」
やっぱりそうだよね? 師匠が何かするわけじゃないよね? なんでそんなに胸張ってドヤ顔できるんですか?
はぁ……レイさん、期待させといて申し訳ないんですけど、僕まだ百パーセント魔法使えるとは限らないんです。
と言える空気ではなく、僕は苦笑いで誤魔化す。
あぁ胃が痛くなってきた……
1話1話を長くしていきたい。
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