第6話 スパルタ修行は突然に
深い森の中。木々の葉の隙間から日の光が射し込み、ログハウスを照らす。まだ残る眠気に耐えながら外に出た僕は、その光に顔をしかめながら、大きなあくびをした。
一晩この家で寝て、分かったことがある。
「布団が欲しい……」
油断してた……まさか床で寝ることがここまで身体に負担がかかるとは……
「起きたか」
「おはようございます」
地面にあぐらをかいて座っている師匠と挨拶をしてから、僕も腰を下ろした。
「修行初日ってことで今日はまず、魔法の基礎を知ってもらう」
「おぉ! 魔法の基礎!」
「と言っても私が教えるわけじゃない」
「師匠から教わるわけじゃない!」
「なんだそのテンションは。冒険者ギルドクアラ支部の初心者応援教室へ行ってもらう」
「冒険者ギルドクアラ支部の……なんて?」
「初心者応援教室だ。朝飯を食べ終わったらすぐに出るぞ」
冒険者ギルドか。また異世界らしい単語が出てきたな。
「あの、朝ごはんって何ですか?」
「あっ? そんなのそこらへんの獣でも焼いて……」
周囲を見渡した師匠が言葉をつまらせる。
「よし、ギルド近くで何か買うぞ」
「あ、誤魔化した」
後でバレットに確認すると、こんな森の中でも一応クアラの町内であるため、安全が確保されており獣はほとんどいないそうだ。
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大通りを進み続けると見えてくる、二階建ての大きな木造の建物。これがクアラの町の冒険者ギルドだそうだ。
扉を開けると、ヒンヤリとした空気が全身を撫でる。原理は分からないけどエアコンと似たようなのがあるのかな?
「なんだか普通だな」
「そうですね。もうちょっとチンピラみたいなのに絡まれたりするかと」
「ここを何だと思ってるんだお前ら……」
ここへ来る最中に偶然出会ったバレットが、後ろでため息をついた。
「いいか? 冒険者ってのは助け合いだ。初心者とはいえ同業者を貶める行為なんかしたら即ギルドから追放だ」
なるほど、以外と厳しいんだな。ラノベとかでよく見る放任主義のギルドとは大違いだ。
総合受付と書いてあるカウンターの1つに並び、師匠と晩ごはんを何にするか問題について話し合っていると、「はい次の人どうぞー」と気だるげな声で呼ばれた。
「冒険者登録?がしたいんですけど」
「そっちの子も?」
「あぁ、俺もだ」
ここで受付のお姉さんが軽く目を見開いた。
「女の子がそんな口調じゃダメでしょー? 冒険者だからって乱暴な喋り方しなくていいの!」
「は? 俺は元々こういう喋り方だし、てかお前より全然年う――」
「はいはい、じゃあ少し待っててねー」
お姉さんはそう言ってカウンターの奥へと走っていった。イライラが顔に出ている師匠をなだめていると、手のひらサイズの金属プレートを持って戻ってきた。
「それじゃあこのプレートに触れながら自分の名前を言ってね」
血をつけてとかじゃなくて良かった。異世界に来て言うのはあれだけど、やっぱり痛いのはなるべく避けていきたいな。
あ、もちろん紗希を助けるための修行なんかは死ぬ気でやるけどね?
「八神トオル」
「ルナ」
プレートに勝手に文字が刻まれていき、それぞれに自分の名前が彫られた。
「このプレートはこんな雑な見た目だけど、身分証としての役割も果たすから絶対に無くさないようにね」
「無くしたら、かな~り面倒な手続きが待ってるから」と念を押したお姉さんは、他にも色々と説明をしてすぐに他の人の対応に移っていた。
「さぁトオル。早速依頼を受けるぞ」
師匠はいつの間にか持っていた紙を僕に見せつける。
「はい却下で」
「なぜだ!?」
頼りないとは思ってたけど、まさかここまで馬鹿だったとは。何この依頼。ワイバーン討伐、適正ランクC以上て。最底辺のFランクがやったら瞬殺ですよ? もちろんこっちが。
「これぐらい倒せるようにならないとアイツは助けられないぞ?」
「そ……それは……」
紗希を助けることに繋がるなら……いやでもさすがに……
「俺はトオルがこいつを倒せると思ったからこの依頼を選んだ。まぁ少し特訓はするけど」
結局、僕は師匠の言葉を信じてこの依頼を受けることにした。今日と明日はワイバーンとやらを倒す修行をして、実際に依頼をこなすのは明後日から。
この魔物を倒すために必要不可欠なのが、僕の魔法らしい。まだ発動の仕方も分からないけど、上手く使えれば格上の相手も倒せるそうだ。
「さて、まずは発動の条件だが……」
家に戻ってきた僕達は、初めてこの魔法を使った状況を再現するため、水の入ったコップを用意した。
「それじゃあ落とすぞ」
僕が頷くと、師匠は躊躇いなくコップを手放す。同時に心の中で「止まれ」と唱えてみたが特に意味はなかった。
「駄目か……」
師匠は空になったコップを拾い上げ、水を汲みに行くためか外へ向かい――
「そりゃ!」
「っへ!?」
ドアを開けようとした手はドアノブを素通りし、僕の向かってコップを放り投げた。
突然のことに訳が分からず、目を閉じて身構える。
「よし、成功だ」
「成功って?」
恐る恐る目を開けると、ぶつかる寸前で止まっているコップが。
「今どんな感じだ?」
「どんな感じと言われても……なんとなくダルい?」
「まだ微妙か。続けるぞ」
魔法を使えて感動している僕をよそに、外から大小様々な大きさの石を持ってきた師匠。
「今日で発動するコツを掴んでもらおう。さて、しっかり止めないと怪我するぞ」
わぁ爽やかな笑顔。本気でやる気だこの人。昨日までの修行を楽しみにしていた自分を殴りたい……
こうして、予想を越えるスパルタ修行が幕を開けた。
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