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第4話 非日常の幕開け

 目の前で紗希が殺される。何度も、何度も。僕は助けようと手を伸ばすが、近づけば近づくほど紗希は遠く離れていく。


「助けて……トオル」


 血まみれの紗希が僕の名前を呼ぶ。


「なんで助けてくれないの…」


 絶対に助ける。助けるから。


「こんな夢、早く覚めてくれ」


 僕は目を固く閉じ、そう願い続ける。




~~~~~




「――だ。死な……で。……紗希!! うわ!」


 すぐ近くで聞こえた誰かの叫び声で飛び起きた僕は、それが自分の声だったと遅れて気がついた。


 深呼吸して落ち着いてから、今いる場所を確認する。壁も床も天井も全てが真っ白。ここまでは少し前に見た光景と同じだ。


 唯一違うところと言えば、木で作られたドアがあることだろう。周囲に比べて明らかに浮いているそのドアに、僕の興味が湧くのは必然だった。


 ……少しならいいよね?


 恐る恐るドアノブに手をかける。


「おら起きろー!」


 突然ドアが勢いよく開かれ、僕は壁とドアに挟まれた。


 漫画とかでよくあるけど、実際に体験してみれば分かる。かなり痛い。


「あれ、どこ行った?」


 ん? この声って神様?


「そんな所で何やってんだお前」


 身動きがとれずジタバタしていた僕に気がついたのか、神様がドアを閉めた。


 体の自由を取り戻した僕の目に映ったのは……


「一応確認なんですけど、神様ですよね?」

「おう、俺が神だ」


 こういうのを詐欺って言うのか。確かに声は中性的だったけど喋り方は完全に男だったし、自分のこと俺って言ってたのに。


「まさか女の人だったとは……」


 しかも、喋り方と同様ボーイッシュな見た目をしているが、結構な美人さんだ。僕よりも4~5歳は年上か?


「ちなみに何歳ですか?」

「神様に年齢を聞くのは良くないぞ少年」


 笑って受け流す神様の背後に、怒り狂った虎の幻覚が見えたのは気のせいではないと思う。


 二度と年齢に関する話はしないと誓った瞬間だった。


「さて、本題に入ろうか」


 神様が急に真面目な顔になり、あぐらをかいて座ったので、僕は慌てて部屋の隅に正座した。


「紗希を助けられるんですよね?」

「あぁ、細かく説明すると面倒くさいから簡単に言うぞ」


 どうやら神様の説明によると僕はこの世界に来るとき、時間をねじ曲げながら転移したらしい。一ヶ月分の時間を巻き戻しながらこの世界に来たため、この世界で一ヶ月過ごしてから地球に戻れば、紗希が殺される直前に戻ることができるわけだ。


 本来、神様は時間や空間を操作して歴史を変えることは禁止されているようで、さっきまで部屋にいなかった理由は上司に叱られていたかららしい。


 どうせなら最後まで面倒を見てやれ、と言う辺り上司も悪い人では無さそうだ。


 次にまた何かやらかすと、神様の存在が消滅なんてことになるかもしれないってことで今回がラストチャンス。


 神様の上司って何だ? などという疑問は今は置いておこう。


「つまり、この一ヶ月で僕が強くなって紗希を助けろってことですね」

「どうだ。簡単だろ?」


 口で言うのは簡単だけど。


「一ヶ月で鍛えるって言っても限界がありませんか? 僕、自慢じゃないけど筋肉なんか一ミリもありませんよ?」

「ん? 筋肉も最低限はつけてもらうが、この一ヶ月では魔法の使い方を覚えてもらうんだぞ?」


 おぉ出たな魔法。ファンタジーっぽい。


「でも僕に魔法が使えるんですか?」

「この世界の人間はほぼ全員が魔法を使える。そしてお前は元々この世界の住人になる予定だった。つまり、魔法を使う素質はあるんだよ」


 お前自分で一回使ってただろ。と言われ、コップが空中で止まったことを思い出す。


「あれが魔法……」

「これで大体の説明はこれで終わりだ。修行は明日からやるとして、まずはこの世界を自分で見てもらう」


 早く強くなりたいと焦る気持ちもあるけど、やっぱり異世界がどんな場所なのか見てみたい。


 まだ見ぬ光景に僕は期待を膨らませる。


 わくわくしながらドアを開けると、外の光が容赦なく目に刺さり、思わず目を閉じてしまった。


「目が、目がぁ!」

「うるさい」

「あ、頭が……暴力だ」


 某アニメの名ゼリフを神様に物理的に止められ、僕は頭を押さえてうずくまる。痛みが引くのを待ってから、明るさに目を慣らしつつゆっくりと目を開いた。


「おぉ……これが異世界」


 第一印象は……森だ。よくよく見れば初めて見る生き物もいるけど。


「……なんかあんまり感動しない光景ですね」

「まぁ町までは結構離れてるからな。ここらへんなら人目も無くて修行に丁度いいんだ」

「なるほど、それで森の中に家を……って家!?」


 後ろを振り向くと、それはそれは立派なログハウスが。中は真っ白で家具も何もないから、てっきり白い立方体の箱みたいな家かと思ってた。


「そんな変な家があったら不自然だろ? だから見た目は普通のログハウスにしたのさ」


 どや顔で胸を張る神様。これは後から聞いたことだけど、あの白い部屋は神様の世界に存在しているらしい。ログハウスのドアが、この世界と神様の世界を繋いでいるわけだ。


「さてと、この森の一本道を抜ければ町に着くからな。さっさと行こう」

「あ、はい」


 これは道っていうか獣道だね。油断してると道を見失って迷いそうだ。僕は神様とはぐれないよう、慎重に歩みを進める。


「そうだ、町に着いてから怪しまれないように設定を決めておこう」

「設定? 親子とかですか?」

「この見た目で親子は無理があるだろ。姉弟か師匠と弟子のどっちがいい?」

「じ、じゃあ師匠と弟子で」


 姉弟はなんとなく恥ずかしい。


 町へ着くまでの数十分、覚えられる範囲で最低限のことを決めた。まず、お互いの呼び方はトオルと師匠だ。町中で神様なんて呼んでたら変人扱いされるからね。


「お、ほら森の出口が見えてきたぞト……トオル」

「わぁ本当だ。か……師匠は町に行ったことは?」

「俺は今まで神の世界から時々見てただけだからな。この世界を歩くこと自体が初めてだ」


 呼び方がぎこちないのはしょうがないとして、さりげなく爆弾発言を聞いた気が……


「あの僕、この世界の一般常識とか全然分からないんですけど」

「安心しろ。お金の計算ぐらいは覚えてきた」


 うん、不安しかないよ。ていうか森を歩いている間ずっとニヤニヤしてたのは、か……師匠も楽しみだったからなんだね。


 こうして常識知らずの僕達は、不安と期待を胸に森を抜けた。


 木々に遮られていた視界が開け、大小様々な建物が目に映る。大勢の人が道を行き来していてとても賑やかだ。やっぱり地球とは服装や町並みが違い、ここが異世界なのだと実感する。


「師匠」

「なんだトオル」


 正直に今思っていることを口にする。


「この世界での生活がかなり楽しみです」

「それは良かった」


 師匠は数歩進んでから後ろを振り向く。


「今まで言うのを忘れてたからな。一応言っておこう」


 そう前置きしてから、高らかに叫んだ。


「ようこそ異世界アルスへ!」


 それがこの世界の名前……アルスか。覚えやすいのはいいんだけど……


「師匠、皆見てます」


 僕が小声で呟くと師匠も周囲の視線に気づき、恥ずかしそうにうつむく。


 やっぱり不安だ。


ブクマ、感想、評価などよろしくお願いします。

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