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第2話 史上最悪な誕生日


 「目を開けたら、知らない天井だった」なんて言葉、まさか使う日が来ようとは。


「……ここは?」


 上半身を起こし、周囲を見渡した僕の目に映ったのは、天井も壁も、床までもが真っ白な部屋。


 すぐに分かった。こりゃ夢だ。


「夢じゃねぇよ」


 頭の上から声が聞こえた。僕は突然のことに驚きながら視線を上に向ける。


「あー違う違う。頭の中に直接声を送ってんだよ」


 ……なんだか変な夢だな。周囲をもう一度見渡し、首をかしげる。


「聞こえてるよな?」


 まあ夢ならいつか覚めるか。その場で寝転がり、目を閉じて安らかな睡眠を――


「死にてぇのか?」

「すいません。聞こえてます」


 一瞬で正座の姿勢をとる僕。うん、我ながら無駄のない動きだった。


「聞こえてるなら最初からそう言えよ」

「すいません。これって夢じゃないんですかね?」


 姿の見えない相手に向かって、少しビビりながら質問をする。初対面の相手に向かって「死にてえのか」なんて言う人は十中八九ヤバい人に決まってるからだ。


「簡単に言うと、お前の体をこの部屋に移した。まぁ一時的なものだからすぐに戻っちまうけどな」

「ってことは夢ではないと……」


 信じたくはないけど、どうやら本当らしい。夢にしては意識がハッキリしているし、試しに自分の顔をビンタしてみたら普通に痛かった。


「色々聞きたいことはあるだろうが時間がない。要件を言うぞ」

「は、はぁ」


 それから数分間、僕は突拍子もないことを聞き続けた。


「以上だ。質問はあるか?」

「ありまくりですよ!?」


 相手の話をまとめると、こういうことらしい。


 1,僕は生まれる世界を間違えた。

 2,僕には、本来生まれるはずだった世界へ行く権利がある。

 3,コップが空中で止まったのは、僕自身の能力らしい。

 4,この場で僕の能力を消せば、今まで通りの生活ができる。


 うん、質問あって当然ですよね?


「時間がないから3つまでな」

「えぇ~……」


 文句はあるが言っても仕方がない。少し考えてから僕は口を開いた。


「1度別の世界へ行ったら、元の世界へ戻ることは無理なんですか?」

「いや、まぁ出来ないことはないが……なるべくしないほうがいいな」

「なんでですか?」

「こっちにも色々あんだよ。ちなみにこれで質問2つ使ったからな」


 まずい、流れで聞き返してた。あと一つはよく考えて聞かないと。


「お、残念。もう時間だ。」

「えっちょっと待って。もう少しってうわ!」


 慌てる僕の視界の隅で、手が段々と透けていく。よく見たら下半身なんかもう完全に消えていた。


 あっという間に首から下が消えてしまったところで、苦し紛れに最後の質問をする。


「じ、じゃあ結局あなたは誰なんですか!?」

「ん? 俺か?」


 急に意識が遠のいていく。さっきまでよく聞こえていた声は、まるで水の中にいるかのようにくぐもり始めた。


 完全に意識を手放す間際、僕は確かにこう聞こえたんだ。


「俺は神だ。もし別の世界へ行きたくなったら俺を呼べ」





~~~~~





「神様……か」


 朝、いつものベッドで目が覚めた。夢ではないんだよね? 自分に問いかけるも、答えが出るわけがない。


「まぁいいや、とりあえず学校行く準備しないと」


 時計は既に家を出る時間を指している。久しぶりに遅刻しそうになっているのにやっと気がつき慌ててベッドから降りた。


 大きな足音を立てながら階段を駆け降り、リビングへ向かった僕が目にしたのは。一枚の付箋だった。机に貼ってあったそれには、「誕生日おめでとう。ケーキは冷蔵庫にあります」の文字が。


 そういえば、僕の誕生日って今日だっけ。この文面からすると、今回の誕生日も一人かな。


「ケーキは皆で食べるから美味しいんだよ」


 付箋の文字を指でなぞりながら、そんなことを呟く。


 そろそろ真面目に急がないと電車に乗り遅れるなこれ。付箋を丸めてゴミ箱に捨て、玄関を出た僕は駅へと走った。





「いや~いい汗かいた」


 ふぅっと息を整え、隣に座る紗希に笑顔を向ける。


「頑張りましたみたいな顔するのやめてくれない? 間に合ってないから。次の電車まで待ってたら遅刻確定だから」


 紗希はため息をつきながらスマホの時計を確認、更に深いため息をついた。


「全く、一人で起きられるとか言うから駅集合にしたのに。また中学のときみたいに起こしに行こうか?」

「だから、今回はしょうがないんだってば」


 正直に夜のことを言っても信じてもらえないだろうから、理由は曖昧にして話を逸らす。


「お詫びにコンビニで何か奢るよ。次の電車までまだ時間あるでしょ?」

「あるっちゃあるけど……じゃあ飲み物だけ」


 よし、上手く話に乗ってくれた。内心ニヤリと笑いながら、僕達はコンビニへと向かった。


 駅を出て徒歩数秒の距離にあるコンビニ。学校帰りによく寄る場所だ。その自動ドアをくぐると、暖かい空気が全身を包み込む。なんだここ天国か。


「来て良かったぁ~」


 どうやら隣も同じことを考えていたらしい。間延びした声が紗希の口から漏れる。


「とりあえず、飲み物買ってから休憩スペース行って暖まろう」

「うん、賛成」


 僕の提案に迷わず賛成した紗希は、温かい飲み物を売っている棚から緑茶を手に取った。ちなみに僕が選んだのは缶コーヒー。中学生のときに、大人になる練習と称して飲む練習をしていたら、いつの間にか好きになっていた。


「じゃあ支払いお願いね! ちょっとお手洗い行ってくる」

「了解です」


 僕は会計を済ませ、入り口近くにある椅子に腰を下ろした。


 外の景色を眺めながら、ふと今の状況を確認する。登校途中に好きな人とコンビニへ寄り、二人で飲み物を買ってのんびりする。


 なんか……いいなぁこういうの。


「確か紗希ってグミ好きだったよね。ささっと買ってこようかな?」


 ちょっとしたサプライズみたいなことをしたくなり、僕はお菓子売り場へ向かおうと立ち上がった。




 と、そこで不思議な集団が店内に入ってきた。五人組で入ってきたその人達は、皆揃って覆面を被っている。一人は大きなリュックを背負い、それ以外の人達の手にはエアガンが。


 その格好が何を意味しているのか、理解するのに時間はかからなかった。


「あ、店員さん。お金もらえます?」


 リュックを持っている人が、レジ打ちをしている店員に声をかけた。しかし店員は「何言ってんだ」と言いたげに首をかしげ、ちょうど会計の最中だったおばさんは声を荒らげる。


「ちょっとあんた! そんな格好して何やってんだい! 最近の若い子はこれだから駄目なんだよ!」

「あ~やっぱり駄目ですか? お~い、このおばさんいらないよ」


 入ってすぐに自動ドアの電源を切り、入り口に立っていた一人がレジへ向かう。


「何、このババア?」

「うん、やっちゃって」


 何をやろうとしているのかは分からない。ただ、良くないことが起こるのは確実だった。


 声からして、二人とも男だろうか。エアガンを持ったほうがおばさんへと近づき、銃口をおばさんの額にピタリとつけた。


 エアガン……だよね?


「私がこんなオモチャに驚くと思った!? 勘違いも甚だしいわ!」


 おばさんの口は止まらない。僕は心の中で「謝ったほうがいいよ」と言うが、口に出さない限り相手に聞こえるわけがない。


 躊躇することなく、男は引き金を引いた。


「ガッ……」


 乾いた銃声が鳴り響き、おばさんが悲鳴も上げることなくその場に倒れる。


「これでよし、さて店員さん。改めて言うよ」


 リュックの男が満足げに頷き、再度店員に問いかける。


「お金をもらえますか?」





 今日は僕の誕生日。そして、僕の日常が終わりを迎える日だ。

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