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酒嚢飯袋  作者: アザとー
4/6

アイス

コンビニのアイスクリームケースを覗けば、色とりどりのパッケージにつつまれた商品が並んでいて目にも楽しい。

透明なパッケージでアイスの表面にのせた冷果の美しさを見せている商品もある。少し高級なアイスなどは色合いも落ち着いた深みのある色でパッケージを飾って華々しい。


しかし、そこにホームランバーが置かれていると、強い郷愁とコレジャナイ感に囚われて身悶えてしまう、これが昭和生まれの性。


私たちの世代が見覚えあるホームランバーといえば、バニラアイスを固めた直方体のボディをロゴ入りの銀紙で包み、そこからにゅっと棒が突き出た安っぽい見た目だったはずだ。

しかしコンビニでみるホームランバーは他のアイス同様、持ち手など見えぬように完全個包装された赤いパッケージのそれである。

家から少し離れたコンビニで昔ながらの銀紙包装の商品を見たことが一度だけあるが、それも透明な袋でぴっちりと個包装されていた。


昔、近所の駄菓子屋のアイスケースはカオスだった。それ自体はスーパーなどにある上部がガラスの引き戸になったありきたりのものだが、内部がカオスなのである。


お好み焼き屋も併設しているからだろうか、右半分には食材を入れた紙袋が津っ子稀、ここに薄っすらと霜が張っている。

左半分がアイスのためのスペースで、ここには今でも見かけるような某ブランドのカップアイスや綺麗に個包装されたアイスバーが入っていたが、これは子供にとっては高級品である。

ケースの中でいちばん幅を利かせているのはホームランバーと棒アイスだった。


棒アイスというのは、今でも夏場にスーパーで袋入りのものを見かけるアレである。チューブ状のビニールにどぎつい色の砂糖水をつめて売られている、アレ。

それを凍らせて一本ずつ売っており、値段は十円だった。

財布の中に小銭しか入っていないような子供時代は、これをよく買った。アスファルトが歪むのではないかというほど熱い夏の日向で悪ガキどもが輪になってこれを啜る姿は今でも鮮やかに思い出せるほど懐かしい夏の風物詩だった。


その某アイスの奥にあるのがホームランバー、これは蓋をむしりとったダンボールがそのままアイスケースの中に突っ込んであり、持ち手の木の棒が等間隔に行儀よく並んでこちらに向いている。

店のおばちゃんに三十円払ってこの中から一本を引き抜けば、ロゴ入りの銀紙で包んだだけのそっけないアイスが手に入るのだ。


これはもっぱら一人で駄菓子屋へ行ったときのお楽しみだった。何しろこのアイス、当たりがついているのだ。

兄弟の長子であった私は弟たちに物を分け与えることが多く、他の当たりつき駄菓子であればおまけでもらったもう一個を、その場にいる誰かしらに渡してしまうような性格でもあった。

だからこそ、このアイスだけは当たりがでたときに独り占めできるよう、ひとりでこっそりと。


銀紙をむくのももどかしく、ミルク色の塊にかぶりつく。

背後からはうるさいほどのせみ時雨が夏の熱気を煽る。

少し離れたアスファルトの上にはゆらりと蜃気楼があがっているのが見えて。

そんな暑さの中、アイスの表面に歯を立てればきりりと脳天まで冷気が突きあがる。のどにすべりこんでくるミルクの香りをたっぷりと含んだ甘味の何とおいしいことか!


今夏、その懐かしい味を求めて久しぶりにホームランバーを買った。しかし、それは期待したとおりの味ではなかった。

今年が暑くないせいだろうか、それとも、急いた気を宥めながら剥くあの銀紙包装が懐かしいのだろうか……いいや、私のからだが昔とは違って老いてしまったせいかも知れない。


あのころ、クーラーはぜいたく品で締め切った部屋を一日中適温に冷ましておくなんてことはなかった。夏は汗をかくものであり、子供はうだるほど暑いアスファルトの上で平気で遊びまわるものだった。

もしもこの年になって同じ夏を過ごせといわれたら耐えられるわけがない。夏はそれほど過酷なものだったのだ。

だからこそ火照ったからだを冷ますアイスの一塊があれほどおいしく感じたのだろうと、小さなアイスバーをかじりながら、そう思ったのである。


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