92話【Qは収束する】
「まず一つ。[何があった?]
二つ。[兄様を追っていた連中は、何者だ?]
三つ。[追われる理由はあるのか、否か?]
最後に、[鉄砂海峡で、何が起こっているのか?]
……いかがです、フェン兄様?」
『それともう一つ。
[サビズナとは何で、その傀儡とは何者か]、です』
「あ、できればあの渡空挺が、どんなものなのか知りたいです!」
ヘルの問いに、ボク達は好き放題に項目を付け加えていく。
大事なことだ。疑問は、答えられるものが居るうちに処理せねば。
「ふふ、知識を求める事に旺盛だね。
この子達も、きっといい術師になれるよ」
「知識や見識が内包世界を豊かにする、とは言われていますが……。
学者達の間でも意見が別れている説ですよ、フェン兄様。
――それはそれとして。問いの答えを、お願いします」
「わかった、では答えよう。一つ目だ。
己は、或る物を手に入れようとして、不覚を取り、囚われ――そして逃れた」
「或る物――? 兄様、それはまさか――」
「それは後で話すよ。ノア。
そして2つ目。[追ってきた連中]だ」
『――敵機らは、何者なのでしょうか?』
「賊さ。己にとってはね。
彼らにとってはそうじゃないだろうけれど」
「――? どういうことなんでしょう?
こっちから見たら賊、相手からしたら――うーん?」
――賊。
奪う者、盗人、悪党――
ああ、そういう事か。
『――奪い返したのですね?
あるいは、盗品を横奪したか』
彼女と視点が合う。
口角を上げた柔らかな笑み。
{正解!}とでも言うかのように。
「そうさ――その通りさ、お嬢さん。
横取りを許すなんて、迂闊なことをしたものだよ。
だが、目的のものは――この通り」
彼女はどこからともなく小さな瓶を取り出し、軽く揺らした。
中身は――モヤのようなものがかかっており、時折赤い何かが見えるくらいだ。。
「それが――?
本当に、そんなもので……?」
「少なくとも、試して見る価値はあるはずだよ。ノア。
父様の呪いを砕ける可能性をもつ代物なのだから」
――!
子爵の、呪い――!
『――ヘル。
兄様が探していたものというのは――つまり――』
「――そうだ。
父の呪いを解呪しうる方法、あるいは物品。
フェン兄様の探索行は、それが目的だ」
『――!』
――解呪。除霊。対抗術式……。
そう、それが【呪詛】であるならば、それを【除去】する[手段]があって然るべきだ。
【知性ある魔物】が、死の瀬戸際に放ったという、【呪詛】
それによって、子爵は[肉体を石化し凍結された]という、話だ。
石化し、凍結。
魔物が[虚空の女神の眷属神]とすれば、眷属神は[如何なる神性か]?
邪視持つ悪神や怪物的下級神性のような、死の婉曲表現として[石と化す魔眼]?
単純に冬や凍結、凍てついた土地を統べる――冬枯れの神性?
一切合切の停滞――即ち、静止そのものを概念化した、時間の神性ということもあり得るか。
――どちらにせよ、【解呪】が為るのであれば。
手掛かりの一つや二つは得られることだろう。
[如何なる手段によって][解呪が為される]か。
手段。
それは即ち、【呪詛の行使】を[終着点から遡る]ようなものだ。
その過程で、幾らかの性質は明かされることだろう。
――焦ることはない。
愉しみは後に取っておくのも、また素晴らしいものだ。
例え[女神への道筋]の為の[眷属神の情報]であっても。
情報は、ボクにとって――必要なものなのだから。
「メガリス?」
ヘルがボクの顔を、心配そうに覗き込む。
……少しばかり高速思考処理遅延が出たらしい。
『[反応正常]、ヘル。なんでもありません。
――それで。フェンベルトス様。
その中身は、何なのでしょう?』
少しの沈黙。
そして彼女は口を開く。
「……それを説明するには、[問:二/三/四/五]に答える必要があるね。
ああ、つまり――[問:二/三/四/五]は、纏まった一つの問題なんだ」
『[関連する一連の問題]……?』
「そう。つまり――」
彼女は少し明滅し、次の言葉を放つ。
「――この浮遊島で起こっている、[大規模闘争]についてだ」
揺らめきを終えた彼女の横顔は、どこか楽しげな笑みを浮かべていた――




