87話【虚に非ざるは実なる空へ】
[*主要な島図との照合を進めています。
――今しばらくのお待ちを、皆様]
「[随時進捗開示要求]、オーチヌス!」
潜空挺オーチヌス指揮室。
円卓表示機に向かい、艦と話すフルカ。
{「ひとまず一度離脱し、潜空挺からの観測を」}
そう提案したのはヘルだ。ボクも含めて、全員が同意した。
「[全く未知の浮遊島と結合した]
――もちろん、その可能性もあるが」
『――その逆。
[既知の浮遊島のいずれかと結合した]
その可能性も残っている――と』
そんなわけで、艦の所持する浮遊島図と、
観測された[未知の地形]とで、照合作業が行われている。
――何か、手伝えることがあるか、と聞いてもみたのだが。
{[*いいえ、メガリス嬢。
当方の手は足りております。それに――]
[*この状況であれば、貴女には別の役割がある筈ですので]}
――と、断られてしまった。
おそらく、戦力としての話だろう。
今現時点で、不確定な要素はあまりにも多い。
当然その中には、[敵襲]ということも含まれているだろう。
であれば、唯一の空中戦力である当機は、極めて有効な戦力だろう。
――あるいはヘルの魔法なら、自由飛翔もあるかも知れないが……。
ともあれ、[即時対応]を目的とした[待機]――それがまあ、妥当なところだろう。
さて、であれば――
……どうしたものか。
機体整備、艦内電脳閲覧、新兵器開発――
――造兵廠は清掃する必要もない。
瞑想行為など、嫌なことを思い出すだけだろう。
……どうしたものか。
やはり、鉄血展開試験などが無難なところだろうか。
蒼天色刃塊をわざわざ持ち帰ってしまったのだ。
どうせなら、[鉄血に頼らない武装]として、適当な武器形状を与えられればいいのだが――
『――?』
艦内に響く、警報音――いや、これは[ヒトを駆り立てる音]ではない。
これは――どちらかと言えば、[居場所を知らせる音]――?
「!?
お嬢様っ! 大変です!」
「どうした、フルカ?」
「[救難信号]です!
非虚空領域から――はい、近づいてきます!」
「渡空挺か……?
とにかく、助けるぞ! 応答を!」
「はいっ!
[当方情報開示][誰何並びに情報開示要求]!」
[*了解!]
――救難信号?
いや、確かに有り得る話だ。
艦のような潜空艦でなくとも、非虚空面を――
……些か、煩雑だ。
簡略化が必要――ならば、虚実で対比させるとしよう。
実空をゆくもの。
虚空ではない、浮遊島間の空を飛翔する[未定義]
それが艦一隻だけ、と言うことはまず無いだろう。
ならばそれらは数多く――少なくとも複数以上存在してしかるべきだ。
それらは事故をすることもあるだろうし、何かの襲撃を受けることもあるだろう。
そういった場合、何をするか?
無論、救援を呼ぶのだろう。
であればそれが、十分に普及して一定の形式を得ることは不思議でもなんでもない。
つまるところ、それがこの救難信号なのだろう。
ヘルたちの様子からすれば、救難信号自体は珍しいものではないようだ。
ならば、さて――
――どう、動いたものか。
『――ヘル。
当機が、出ます』
「メガリス! ……いや、まだ早い。
向こうの状況がわからない以上、いまはまだ[応答]待ちだ。」
『[応答]さえも困難な状況、ということは?』
「それもある。十分にだ。
だからこそ、今は待つ必要が――」
「――お嬢様! 応答きました!
[賊に襲われている/振り切れない/助力を請う!]ですっ!」
「賊だと!?
この空域に空賊、が……?
少しばかり、奇妙だな」
ヘルは少し考えるような仕草をすると、間髪入れずに次の言葉を放つ。
「とにかく、戦闘準備だ!
いいな、メガリス。打って出るぞ!」
『[命令承認]』
「はいっ! 行きましょう!
[転舵前進、加速接近]」
加速する艦、武器を手に取るヘルとフルカ。
そしてボクは――準備など一切不要。真っ先に甲板を目指す。
……おや?
そういえば――
――セタの姿が、見えないが――?
――[通信確認]...[応答確認]
「――なんだい、アレ?」
『……[視覚介入/上位権限]。
これは――?』
既に甲板に居たらしいセタの視界を通して見た、賊らしきものの姿。
金属質の輝きを放つその機体は、宛ら羽蟲のような形状で。
空の一片を埋め尽くすように、獲物へと群がる姿を見せる。
そして――
『鉄の――鳥?』
追われていた、そう言えるものはただ一つ。
それは宛ら――鳥のような姿。
いっそ滑空機のように長い羽根、嘴のような先端は半開きで――開閉機構か。
全身は黒く、何処か黒曜めいた煌めきがあり、あるいは金属素材ではないのだろうか――
「――おい、メガリス!
どうすればいいんだい!?」
『救出します。
おそらく、アレが先程の――』
「そうじゃない!
アレが――今! 突っ込んでくるんだよォ!」
『!?』
見れば、それは既に眼前。
思いのほか小さなその黒鳥は、今にも――
――艦の甲板に、直撃しようとしていた――




