86話【青く廻りて進む】
眩い閃光、宛ら極光が如く七色に輝き。
楔らは、一つになる――
否、双つは元より一つであったものだ。
ならばこう表すべきだ――【回帰した】と。
――だが。
これは、何だ?
これでは、まるで――
……。
――■〓■〓_■〓――
『――!』
[名状しがたき脈動]は、唐突に終わり。
ボクの手の中には――
『【楔】――?』
――変わらず。
過剰歪曲螺旋金属柱――【"識"たる楔】
――いや。
変化した点が、一つ。
『――模様……?』
碧色の、螺旋。
一重に、二重に――幾重にも。
描かれた――模様。
模様は刻まれているようで。
同時に――ただ、塗り描かれたようで。
まるで存在自体が不確かなように、楔に顕れていた――
「――メガリス」
ヘルは、あまり見たことがない表情――
おそらくは、{呆然}。ないしは{怒り}……に、近いものだろう――
――のまま、ボクに声をかけた。
『はい、ヘル』
「――それは、何だ?
いや、違う――おまえは、それを、何だと思う?」
――言葉を飾る必要など、なさそうだ。
『[双つの【楔】が一つになったもの]
――そう考えられます』
「……ああ、そうだ。
そう考えるのが――妥当だ」
ヘルの表情には{困惑}の色が現れる。
どこか{憔悴}しているようにも見えるが――
「それで、メガリス。
――何か、見えたか?」
――ああ、なるほど。
そちらが、本題ということか。
『いいえ、ヘル。
[石蠍の【楔】]のような[視覚情報記録]は、何一つ』
「……そうか。
何か一つでも、分かることがあれば―――と、思ったんだが」
『ヘル――よろしいですか?』
「?
どうした、メガリス」
『[最初に持っていた【楔】]は、何処で手に入れたものなのですか?』
「それは――」
言葉を切り、僅かな間。
{どう、説明したものか}とでも言いたげな表情。
――さて。
「――分からない。
そう言わざるを得ないだろう」
『……分からない、とは?』
「言葉通りの意味だ。
[あの【楔】]が元々何処にあったものなのか、我々も知らない」
何処か。
[X]→[利用可能領域]へ。
移動の経路が、辿れない。
それは、つまり――
『――[誰か]、あるいは[何か]によって齎されたと?』
「ああ――
……父が【知性ある魔物】と戦った、というのは話したか?」
『――肯定。ヘル。
ですが、詳しくは』
確か、[行動不能凍結雲身化]原因だとか――
しかし、それと何か関係が――?
「――その楔は[戦利品]だ。
父と戦った【知性ある魔物】が持っていたものでな」
『――!』
――持っていた?
【知性ある魔物】にとっても、意味のあるものだったということ?
……いや、そうとも限らないか。
ともあれ、思考の固定化は危険だ。
――そういえば。
【知性ある魔物】も、[転生者/来訪者]だった可能性も……ある、のか。
情報源になり得たかもしれない存在――
されどそれは、[潰えた可能性]だ。
[if]を辿った所で、現時点に辿り着きはしない――
「――だから、その楔は――何処にあった物なのか、それさえも分からない。
故に、探索器代わりに用いていたのだが――」
『申し訳ありません。
何か、分かればよかったのですが』
「――いや、構わない。メガリス。
それに、この新たな――[碧色螺旋の【楔】]も、大きな収穫だ。
なにしろ、[これまでにない現象]の産物だからな」
――姿を変えた、【楔】
それは果たして、何を意味するのか――
「ともかく、ここまでだな。
十分な成果、そう言えるだろう。
――脱出の準備、といこう」
――ああ。
此処は既に地下深く――つまり、アレの出番だろう。
ヘルは粉末で円を描き、フルカは艦に呼びかけている。
下方脱出の魔法……【砂葬靑山】の準備だ。
――だが。
何やら、様子が――妙だ。
「あれ? おかしいなー……オーチヌスーっ! 応答ーっ!」
「どうした、フルカ?
何かあったのか?」
「お嬢様。それが――
オーチヌスからの、応答がなくって……」
――何らかの事態、だろうか。
艦に何か――?
端末との通信途絶、接続不良。それだけなら良いだろうが。
あるいは事故、誤動作……敵襲、などということも――
[*――様、フルカ様]
「ああっ! オーチヌス! [応答確認]!?」
フルカの石版端末より、艦の声。
少なくとも、致命的な事態ではないようだが――
[*――失礼、フルカ様。
少しばかり、問題が発生いたしまして]
「何かあったの!? 大丈夫? [損傷確認要求]?」
[*[異常なし]、艦の問題ではありません。
――この、浮遊島のことです]
「浮遊島が――?」
[*端的に申し上げます。
この浮遊島、【石柱都市アシュターン】は――]
僅かな間、ほんの少しの無音時間。
続く情報は、衝撃を伴う。
[*――拡張、したようです。
島図に無い、[未知の領域]が多数存在しています]
「未知の――」
「領域――!?」
[その情報]は、何故か。
{心躍るもの}を、感じさせた――




