85話【なにかをのこし、つたえるもの】
『――【大地】に於ける【海原】
そう推測可能な光景を――見ました。』
「!!」
「ええっ!」
「……?」
驚きの表情を見せるヘルとフルカ。
セタはよく分かっていないようだ――と言うより、楔について何も教えていなかったか。
あとで会話をすることにしよう――
「待て、メガリス……。
それは――本当か?」
『肯定、あくまで推測に過ぎませんが。
――あれは、少なくとも――【海】と呼べるものでした。』
己自身の知る海とは、必ずしも同じものではないが――
それでも、あれは【海】だ。巨湖や水没地帯の可能性もあるが。
「――いや、そこじゃない。
{【楔】に触れて、本当に何かが見えたのか?}という意味だ」
『……? 肯定。
確かにその【楔】から、[情報流入]のを感じました。
幻視映像は{【楔】から得られたもの}と考えるのが妥当です』
ヘルは少し俯きながら、少しばかり沈思黙考する。
……あまり見たことのない表情だ。
一種の{興奮}に近い感情と、入り混じった{不明}が見て取れる。
「――そうか。結論から言おう。
{今までの事例で、類似する現象は発生していない}
それは、云うならば――"発見"だ。そういうことになる」
『つまり、楔は、[情報記録媒体]でもあると?』
そして、それが――当機であれば、読み取れると?
「――おそらく、そうなのだろう。
ならば、私達はより多くのことを知る事ができる。
それは――【世界再編】への、大きな一歩だ。
[元の形が判る]ということは、[元通りにする事が出来る]という事なのだから」
それは――そうだ。
浮遊島と化し四散した【大地】を[完全原型復旧]にするならば、[原型情報]を知る必要がある。
――だが、ならば何故?
【大地】を打ち壊した【楔】に、【大地の形】が[記録]されているのか?
――楔が、兵器であるのなら。
[最上効率破壊]為に[強所/弱所]を記した[全体造形]を[事前情報登録]――それで話は通る。
――兵器で無いのなら――
例えば。
――工具であったとしたら。
【大地】を[分解]し、【大地の形】を[記録]した。
――【再構築する】為に――!
「――メガリス? どうした」
『……応答、なんでもありません。
ところで――』
――保留だ。
現時点での情報では、これ以上は妄執となるだろう。
気を、取り直せ。
先ず、確認すべきことがある――
『楔は、どのように保管するものなのですか?』
「……うん?
楔を、どう仕舞っておくかということか?」
『肯定、先程の楔は箱――らしきものから取り出すのを見ましたが。
その箱はまだ[残容量十分]のでしょうか』
「――ああ、これのことか」
ヘルは背中に手をやり、件の箱を引き出す。
[視覚反応無し]箱に粉末がかけられると、隠されていた細長い小箱が姿を表した。
「これは――まあ、ただの容器だ。
多少頑丈で、幾らか魔法除けが為されているだけのな」
『別のものでも、代用は効くと?』
「そうだ。
大体は現地調達で済ましていたが――ここには何もないな」
『では、何か造りましょう。
[形状確認][設計代用]――』
「いや――待て、メガリス。
その前に、やって欲しいことがある」
造兵廠の起動を妨げ、ヘルが言う。
「箱の中身の楔にも、触れてみてくれないか?
――あるいは、何か分かることがあるかもしれない」
ヘルはそう言い、箱の蓋に手をかける。
――願ってもない。
今は、一つでも情報がほしいところだ。
『了承、ヘル。
――楔を』
「ああ――」
ヘルは箱を開け、中の楔を取り出す――
「――なっ!?」
『!?』
――否! 取り出される必要さえなく、楔は独りでに起き上がる!
楔はゆらりと宙に舞い、ゆっくりと飛翔する――此方へ向かって!
ヘルの反応から察するに、これは[想定外の事態]!
どう対応する? どう動くべきか?
止めるのは容易い、この程度の速度なら。容易に掴むことができるだろう。
だが何故? 楔は、ボクへ向かおうとする?
――否。知っている。分かっている。
それは既に、[既知の情報]――
ボクは、左手の[石蠍の【楔】]を突き出し。
[他の楔]と一つになろうとしている、[飛翔する【楔】]に向かい――
――双つの【楔】を、触れ合わせた――




