83話【蒼天】
狙いは唯一つ、[動力中枢]を穿てばいい。
それは即ち、頭部前方の【楔】の位置に他ならない。
だがそれは別の不安を掻き立てる。
――楔は、壊れないものだろうか。
そうであれば直に打ち込んだところで目的は達せられる。
だがアレが容易く砕け散るような実に滑稽な代物――である可能性も、当然ながら大いに存在するのだ。
ならばどうする? [仮定:物理的脆弱性]
――簡単な話だ、【楔】以外を破壊すればいい。
[頭部のみを、切り離す]のだ。
必要ならば、残存部位を逐一[凍結処分]にしてゆくのもいいが。
おそらく、この【蒼天】なら――可能だ。
杭撃機の射出機能はそのままに。
一点集約し、対構造物射撃に足るだけの出力を与えた。
両刃直剣弾の方も、それだけで中距離戦闘武装として使えるはずだ。
いくらか、質量過多が――当機の出力であれば、振るうのに苦労はしないだろう。
――ならば――!
最初に、すべきことは――
『――っ!!』
迫るは高速飛翔体――[数量:2]!
それは先程まで[行動停止]していた、残りの尾!!
[推定:行動の阻害]
ボクは杭撃砲ごと直剣弾を持ち上げ――一閃する!
『くっ――!!』
うねうねと曲がりくねる尾は巧みに剣撃の隙間をくぐり抜けると、素早く攻撃対象への距離を詰める!
攻撃速度に於いて大きく不利――[装甲盾]で防ぎきれるか!?
あるいは杭撃砲を離して白兵戦に――
「{"――凍れ、凍てつけ、凍えて眠れ!
永久なる凍土に鎖されて――
遠き時より解き放たれよ!"}
――疾く通せ凍雨よ!
散術式【落花流氷】!!」
『――ヘル!』
飛来した氷弾の嵐が尾の先端を穿ち、その攻撃能力を失わせる!
もう一本の尾も同様だ! 渦を巻くようにして撃ち込まれた氷弾が強固な石材を砕き、圧し折られた尾は斃れるように地へ落ちる!
そして【雹の弾丸】よりなお痛烈で禍々しき冷気が辺りに満ちる!
即ち、その傷はもう[推定:魔力循環阻害]ということ!
ならば――
「――メガリス!」
『――[応答]! ヘル』
――そう。
続く言葉など、決まっているだろう?
「やれ、メガリス!
石蠍を――討て!!」
[命令承認]
――言われずとも!
『 [対象標的・完全捕捉] 』
所々凍結し、影縛られつつある巨大な石蠍。
位置取りは既にできている――狙いは定まった――あとは、そう――
――穿ち抜くだけだ!
『 [一號/二號/三號――統合杭撃機] [砲撃準備完了] 』
[対反動後背部噴進...総展開...演算直結]
[鉄血炸薬総量:完全充足]
[総身鉄血量:動作完全性を依然保持]
[投射軌道演算:完遂][推定加害:全壊相当]...[待機]
『――[射出式杭撃砲] 【蒼天】――』
――頭を垂れよ、[賽の積石]――
『 [兵装解放・総身攻撃指令]――!! 』
――飛翔。
それは刹那の間に終了し。
着弾。
接触。
刃は、石蠍の頭部へと飲み込まれていく。
音。爆音。轟音。
――それさえ、今は一つもなく。
蒼天は、跳ね上がるような軌道で――
――石蠍の体を上下割断してゆく。
――残響。
ただ、杭撃機の射撃音だけが、[光差す大穴]に響く。
やがて訪れる音。
それは――
――崩壊の音。
【楔】の接続を絶たれた石蠍は、既に[与えられた内包世界]を保てず。
偽りの[有思者の形]を失い、只の瓦礫へと回帰する。
――そして。
『――其処、ですね』
跳躍。飛翔。登攀。
――何もかもが、崩れ去る前に。
えぐり取るように、刎ね飛ばされた。頭部。
突き立てられた――【楔】を!
『――捉えたッ!』
掴み――引き抜く!
『[任務遂行確認]! これで――』
――...■......〓〓......――
『――っ!?』
楔に、接触した時。
ボクの中に、流れ込んでくる情報があった――




