81話【魔に依って轟くもの】
――石の砕ける音。
へし折れた刺突器官。
針は失われた。
――ならば!
『――尾もだッ!!』
尾を掴み、振り回す!!
――この機体の、馬力であれば……!
『捕らえたッ!!』
掴んだ尾を――振り回し、叩きつけ――引き摺り寄せる!!
『く……っ!?』
流石の重量、と行ったところか。
ズィリズィリと石蠍が擦れ動くものの、こちらへ引き付けるには至らない。
――脚部の損傷。それも要因か。
『それ……なら!』
ボクはその尾に捻りを加え、ギリギリと締め付けを強めていく。
――右脚部の噴射口はまだ[起動可能]――
『――捩じ切るまでだッ!!!』
――跳躍。ただし、飛翔方向は上方ではない――同一座標だ!
噴進力は側方へ、掴んだ尾を中心に回転運動を行う!!
軋む音はひび割れる音へと推移し、やがて轟音と共に訪れるは破壊!
[破断された尾]はボクと共に回転の中――そして!
『――ッッ!!』
回転は当機を中心としたものへと変化する!
掴んだ尾を振り回すかのような大回転――即ち、"投擲"の予備動作!
周囲の動きは全て見えている――問題はない。
――この軌道だ――!
手を、離す。
尾は独り円を描き。
本体へと――直撃する!
『――!?』
尾は再び切断される。
切り裂いたのは――前肢の剪刀!
その質量からは想像もつかないほど機敏に振るわれた一閃は、己の一部であったものを易易と切り裂き断ち分ける!
――やはり[強度差異]! 剪刀は他の部位よりも[強靭]!
だが――[防御対応斬撃]は既に行われた!
――ならば、それ以上の[装甲開口回避]は[困難と判断]!
――再びの轟音!
あまりにも見事な切断は却って飛翔速度を削ぐに至らず!
僅かに逸れた軌道は直撃こそ免れるも、そのまま装甲部位へと着弾する!
響き渡る――割れ砕け崩れ落ちる音!
[着弾地点観測]! [装甲部位の損傷を確認]!
『――少しは、効いたみたいですね』
着地、左脚部の損傷部位が僅かに軋む。
[問題なしと判断]――だが、念の為だ。
[【造兵廠】から【鉄血】を少量展開]
[各部損傷部位の修復を開始]――
『――!! あれは――』
砕けた尾が再び長方石材状になり――
――装甲部位を、"修復"していく!!
『やはり、あったか――[自己修復能力]……ッ!』
いけない、このままでは――[不利への推移]だ。
それに、このまま再生が進めば――
――おそらく、また最初のような石弾噴射を放ってくるだろう。
噴石をそう何度も耐えられるか――?
[推定:困難]
どうにか、それだけは防がなければ。
必要なものは何か。何があれば――
「――略式絶唱!
散術式――【雹の弾丸】!!」
「――発射!
[水鱗蛇の濁石]ですっ!!」
――!
火力支援――ヘルの魔法とフルカの魔力弾だ。
石蠍の負傷部位に命中し、強烈な冷気が辺りに満ちる。
装甲部位が一部凍り始めたようだが、この程度の威力では十分な破壊には至らない――
――否! 凍結した装甲は、[修復活動を停止]している!
砕けた石材が集まりだすこともない!
これは――ヘルとフルカによるものなのか。
一種の[行動封じ]や[再生妨害]のような魔法なのだろうか?
あるいは、水や冷気の類いによって行動が制限される性質が――?
「よし、問題ない! 行けるぞ!
こいつも普通の【石式機動防衛機構】と変わらん!
外部魔力で機能不全に出来る!」
「はい、お嬢様!
だいぶ古風な魔力みたいです!
今風の魔力なら[規格が合わない]ハズですっ!!」
――よく分からない。
内燃機関に、合わない燃焼液を入れるようなものなのだろうか。
だが、そんなことは後でいい。
大事なことは――石蠍が今、[再生機能停止下]ということ!
もう一度――尾部投擲強打のような攻撃を決めれば。
完全破壊することも出来る筈……!
――それなら、アレがいい――
――ボクの視点に止まったのは。
切断のために激烈に力を溜める、石蠍の剪刀だった――




