80話【死を隔てるは鉄と大河】
――機体は、即座に動いていた――
『[装甲炸裂・特大]!!!』
砂礫の噴射が放たれる瞬間、各部噴射で即時移動。
ヘルの前に立ち、左の装甲盾を構えて、その機能を解放した。
爆発と、突風。
爆風は、与えられた指向性に沿って、前方へと拡散する。
――だが。
全ては――止めきれない!
『――っっ!!!』
[損傷:脚部]
[軽微損傷:胴体部]
[破損:左脚部先端]
[熱量超過:背面部噴射孔=四拾五/百分]
電子頭脳で警告音が鳴り響く。
――この程度、瑕疵ですらない――!
[行動可能]、そう判断できる。間違いなくだ。
爆塵と砂塵が晴れ、次第に周囲の状況が分かる――
――前に! ボクの視界はその場の全てを視認していた。
「くっ……」
ボクのすぐ後ろに居たヘルは、痛打こそ受けてはいないものの。
各所に裂傷と打撲痕を負っているようだ。
損傷軽微、大事無し。そう判断可能――
「きゃぁっ! お嬢様――!」
フルカは少しの傷を負った程度で済んだらしい。
身をかがめて床に伏せ、被弾面積を最小限に抑え込んだようだ。
この身のこなしは少し――予想外に感じた。
「――やってくれたねェ!
〓-〓_...」
後方にいたセタへのダメージは軽微。
分身体なのだから、強度自体はそれなりにあるはず。
そして即座に反撃に移ろうとしている。
――頼もしいことだ。
さて、そうなると。
石蠍の動きは――どうだ?
「――〓-〓ッ!」
石蠍を目掛け、セタの影獣が飛んでいく。
形状は――円錐状の……烏賊か巻き貝か、何かだろうか。
煙が晴れた今、遮えるものなど何もなく。
現れた姿は――先ほどと寸分違わず!
こちらを睨みつけるように止まったまま!
――いや。
……[完全同一形状に非ず]……!?
胴体部分の装甲が、僅かにではあるが損耗している。
……やはり、大技にはそれなりのリスクが伴うということか。
あの石弾噴射は少なくとも、石蠍が身を削って放つ、捨て身の能力ということ――
ならば限界が存在することは明白……再生能力でも無い限りは。
「――〓-〓_〓-〓_〓-〓――!!」
セタの影弾が、石蠍の胴体部分を撃ち抜く――
――否、撃ち抜けていない!
「すり抜けたッ!?」
装甲部位が水平移動し、石蠍の胴体が開放される!
既に狙いを胴体部分に定めていた影弾は、標的再設定など許されず、体内を通過していく!!
「――させるかよォッ!!
〓-〓_〓-〓_〓-〓-〓!!」
セタが〓〓を変更すると、影生物の形質が変化する!
胴体を通り抜け、地面に激突しようとしていた影弾は、急激に失速し――
――石蠍の胴体の下で、["大爆発"]を起こした。
『[反応炸裂装甲機能:再装填完了]』
やったか?
――やってるワケがないだろう。
ならば、次だ。
更なる行動を起こす他あるまい。
ボクは左腕部の装甲盾を修復し、再度の攻撃に備える。
『――来ましたね』
瞬刻、迫りくる高速飛翔体――[形状からの推測]、尾部の刺突器官!
尾はうねうねと曲がりくねり、先端の狙いを見極めさせない! ――と、言ったところか。
――甘い。
ボクの視認器官に、この程度の攻撃が――見えないとでも?
迫りくる石蠍の針。
ボクは両手を少しだけ広げ、2つの装甲盾を構え――
『――貰ったッ!!』
針を、挟み込むように。
2つの盾を、饒鉢めいて叩きつけた――




