79話【意思なき者よ、死を運べ】
全体の形は蠍に似て――
――しかし、尾の数、刺突器官の数は―― 3本!
互いにぶつけ合うこともなく、巧みに動くその動きは――
――宛ら毒蛇か、触手のようで。
幾層にも重ねられた装甲のような胴体部位は、
元が石材とは思えない重量感と強靭さを感じさせる。
多節胴より伸びる脚部は、一見して丈夫そうには見えない。
だが、これほどの機動建造物を支えているのであれば――弱いはずもない。
前肢の蒼い剪刀めいた部位は、別の素材を取り込んでいるのだろうか。
見る限りではあるが、硝子のような鋭さと、玉鋼のような強靭さがあると見て間違いない。
だが。
だが、しかし。
そんなものは重要ではない。
『――【楔】が――!?』
頭部前面に突き立てられた、【識たる楔】!!
守護者を砕かねば、楔を得られない――
――上等だ。
破砕してやる――完膚なきまでに!
「やはり――【石式機動防衛機構】か!」
――いけない。
[義姉にして主人]の命令を、引き出さねば――
『――ヘル! アレは――敵、ですね?』
「そうだ、メガリス!」
ヘルは力強く肯定し、言葉を続ける。
「奴には、意思はない!
交渉の余地がない以上――手加減は不要!
存分に壊れ、メガリス!!」
『[命令承認]
[敵性機動装甲物]を、撃滅します』
啖呵を切った直後――後方からの声。
「――アタシもやるよ!
この機体を慣らすには丁度いいね!」
セタだ。
初めての共闘になるが――まあ、実力は折り紙付きだ。
なんとかなることだろう。
「フルカ! 支援を頼む!
あの手の石機には、どうしても【魔法】が必要になる!」
「はい! お嬢様!
とっておきの魔力弾をお見せします!」
ヘルとフルカもそれぞれ武器を構える。
……そういえば、共に戦う機会など、今までにあっただろうか?
おそらく、無い。どれも、ボク一人で蹴りを付けた。
仲間との共闘――
それはボクにとって。
少しだけ、心躍るものだった。
『【腕に抱く造兵工廠】――起動』
――宜しい、ならば――
『[検索項目]』
――それに相応しい――
["防衛用"]
["必殺"]
["多用途兵装"]
――護る為の、兵器を!!
『【反応炸裂装甲盾】!!!
――[並行展開処理]』
その左腕部には、緋色の物理防盾。
そして、右腕部には――
『――【装甲斜方盾・杭打式】』
三本の杭が上下に生えた、楔型の形状を持つ蒼色大型装甲防盾!
「メガリス! それは――盾か!?」
『[肯定]。
ですが、これは――"護り穿つ"為の、兵装なのです』
「穿つ――そうか。
では。やれるな、メガリス?」
『[上位肯定]です。
撃滅命令に背くことなく。
石塊風情を、粉砕してみせましょう』
「――よし!
お前たち、準備はいいな!」
ヘルは武器を構え、大きく息を吸う。
放つ言葉は――即ち、戦闘開始号令!
「――往くぞ、[楔の守護者]!
我らの悲願の為に――
持って行かせてもらうぞ! その【楔】を!!」
――震動。
巨大なものが、動く音。
石と石とが擦れる音。
小さな石が、すり潰される音。
動く、動く、動く。
この大岩は、歩き、進む
石蠍は、ヘルが切った啖呵に反応したのか。
ゆっくりと、こちらの方へ向きを変え――
「――な……っ!?」
途方も無い量の、石弾の嵐を浴びせかけた――




