78話【石の棺の蓋が開く】
『ヘル、【楔】の反応は』
「――この部屋の中だ。
だが――何処を指している?」
見れば、ヘルの掌上の楔は、フラフラと揺れながら、何箇所かの点を順番に指し示しているようだ。
「なんでしょう? この突起。
明滅器か何かですかね?」
あとから入ってきたフルカが、少し気になることを言う。
『これは……確かに、押し込める形になっていますね。
ただ、迂闊に押し込むのでは、何らかの危険が――』
――!
[聴覚器反応:吸着音/カチリとした音/硬い物同士が擦れる音]
『――誰か、これを、押しました……?』
「――えっ」
即座の反応、行動者は誰か。
要確認事項、さしあたってのそれだ。
部屋全体を見渡す。
声の主は、気まずそうな表情で、全ての突起を同時に押し下していた。
「……こういうのって、押すもんじゃないのかい?」
『[限定的肯定]ですが、[罠/転移/セキュリティ]を無警戒に起動させる事は、極めて危険――である可能性が多く生じるのです。よろしいですか? セタ』
「……ごめんよ、話にしか聞いたことが無いもんでさ」
『問題ありません、どうせ――ボクが全て押したはずですので」
「……そういうもんなのかい?」
『肯定。
そういうものなのですよ。』
同時に、というのは思いつかなかったが。
結局のところ、それを押す以外の選択肢など存在していないのだ。
――他に何か、怪しいものでもあれば、話は別だったのだろうが。
しかし、全て押してこの反応であれば。
あるいはこれも不正解なのかもしれな――
「――これは……! いかん! 集まれ皆!
部屋が動き出したぞ!!」
鳴り響く轟音、摺り合い組み変わる駆動音。
揺れる部屋の中、覚えのある感覚から、状況を推測する。
『――入り口で有ったものと同じ罠です!
どこかへと移動させられています!』
感覚――おそらくは、浮遊の感覚。
ならば、この部屋は――下の方へと向かっている。
――まさか、汚物排出口じゃないだろうな……?
最下層からモノを放り捨てる機構――可能なはずだ。おそらくは。
浮遊島の底は、虚空と並立する【空】に接している。
潜空挺が無ければ落ちるだけ――
尤も、ボクには【対虚空飛翔翼】があるのだが。
だが、この人数だ。
艦が来るまで、持ちこたえられるか――?
[飛行可能時間]について、大した試験は行っていない。
[搭載可能重量]についても同様だ。
どうするべきか。
いっそ削岩螺旋槍状のものか何かで横穴を――?
――と。
大きな揺れ。
のち――
揺れが、止まる。
「大丈夫か? メガリス、フルカ、セタ。
移動は止まったようだが……」
『どこかにたどり着いた。
――そう考えるのが妥当でしょうか』
では、何処に?
[入り口付近の機構]は、[祭壇のある大広間]へ。
おそらくはそれなりの重要度を持つ部屋なのだろう。
なにせ[入り口からの直通経路]がある程なのだから。
そして祭壇と来れば、当然[儀式]が付き物だ。
信仰対象に供物を捧げるなり、芸や歌曲を奉納する舞台とするなり、用途は幅をもたせられるだろう。
つまりあそこは、[知性体の集合区域]だ。
そして[同種の機構]で連れてこられた”この場所”は――
[宗教施設]――そう考えられる。
ならば、その信仰対象足り得るものは、何か?
――それは、即ち――この場所に、我々を導いたもの――
『おそらく、ここに【楔】があるはずです』
ヘルは、ボクに。驚きの表情を向ける。
「メガリス――? なぜ、そう思う?」
『現状からの推測、状況判断によるものです。
まず、第一に――』
ボクは、先程の思考をそのまま言葉にする――
――しようと、した。
「――なっ!? これは――!!」
突如、天井がせり上がるようにして、開く。
――否! これは――!!
『組み石が、組み替えられていく……!?』
見れば横の壁からも石が抜けつつあり、それらは外へ向かって射出されていく。
「くっ――まさか、これは――こいつは!!」
ヘルが叫ぶ。
――こいつ?
ならばこれは罠ではなく――?
「外に出るぞ! この位置は危険だ!!」
言われるがまま、既に抜け切った壁の一辺から外側へ抜け出す。
『ここは――?』
そこは、円柱状に掘削された深い穴の底。
先程までの部屋と同じように、光源不明の光に満ちている。
暗視の要なし――そう判断可能。
しかし、この場所は――
――まるで、あの巨大な石柱たちの――[真逆なるもの]のようだ。
「な、なんだいアレは!!?」
「見てください、石が――!!」
セタ達の見る方向、先程まで部屋が有ったであろう場所に目を向ける。
――そこには。
無数の石材を、組み換え立ち変え変容する。
あまりにも無機質な、石材機動構造物が、産声をあげようとしていた――




