76話【歪み螺旋は何処を目指す】
「――というわけだ。
勿論、拒否もできるが――
私の、私達の――妹になって欲しい!」
おや、ヘルの説明が終わったようだ。
セタは、なにやらぽかんとした表情をしている。
「――あー……その、なんだ。
要は、孤児の引取みたいな……やつ?
えーと……救童院で、やってるような?」
「その単語は分からないが。
おそらく似たようなものだろう。
意思ある者同士の、共同体への勧誘だ」
「随分と寛容だね……なにか理由でもあんのかい?」
「そんなものはないさ。
そもそも[意思力保持者]の数自体、
今ではそう多くはないからな」
「そうでもないんじゃないのかい?
何度か見たことがあるけれど、どの島にもそれなりに居たよ。
四肢五体一頭二足歩行は」
「……そう、今はまだ良い。だがいずれ――限界がくる。
この、決して広いとはいえない――浮遊島に生きる限りは――」
ヘルは悔しそうな表情で拳を握りしめている。
そういう姿もまた美しく、まだ見ていたいと思いはするが。
心苦しくない――否、そんな筈もない。
『故に貴女は求めるのでしょう。
浮遊島を繋ぐ、【識たる楔】を』
口を出す。思い出させる。
するべきことを、なすべきことを。
そもそも我々は、”何”を求めて[水底遺跡群]に居る?
「そうですよお嬢様! あの、ナントカとかいうクサビがあれば!
統合浮遊島塊で生きることだって夢じゃないはずですっ!」
「――ああ……」
ヘルは応えながらも、どこか無理をしているような表情をする。
{それほど単純な話じゃない}――そう続けそうな程に、きつく締めた口元。
何にせよ彼女は沈黙を選んだ。何事かに対して。
……今は、それだけだ。
『ともあれ、探索を続行しましょう。
楔の予想地点は確定しているのですか、ヘル?』
「今はまだ、分からん。
だが、これを使えば――」
ヘルが背中の箱から取り出したのは――
――過剰歪曲螺旋金属柱――【"識"たる楔】
ヘルは楔を目の前に突き出すと、不意に――手を、離した。
『!?』
それは遺跡の床に突き刺さり、誠に奇妙不可解で思考欄外の出来事が――
――生じることはない。
だが。
『宙に――浮いて……?』
「楔は――幾つか奇妙な性質があってな。これがその一つだ。
【他の力によって動かされなければ、地面に近付こうとしない】」
『それは、魔法によるものなのですか?』
「いいや、おそらく違う。
検証の際、父様が呪詛解散を試したのだが、何の変化も現れなかった」
『となれば、また別の力の作用ということになりますね……。
それで、これをどう使うのですか?』
「これでいい、あとは見ていれば――」
不意に、楔がゆらりと動く。
{方角を指し示す}かのように。
その先端を、積石祭壇――の、残骸へと向ける。
『――【楔同士は、互いに引き合う】性質がある――のですか?』
「その認識でほぼ正解だ。メガリス。それでいい。
理由は定かではないが、楔は【他の楔と一つになろうとしている】ようだ」
『成る程――』
しかし、この物体は何なのだろうか?
ヘルからある程度の話は聞いたが、分からない情報の方が遥かに多い。
[女神か、人か]
[時期、年代]
[大地か、虚空か]
[素材、材料]
[非魔法的性質]
[如何なる目的で]
...[該当情報皆無]
――これは、何だ――?
「――あっ! ありましたよお嬢様ー!
この下に、隠し通路みたいなものがあるみたいです!」
知らぬ間にヘルがフルカに指示を出し、残骸の辺りを調査していたようだ。
移動するヘルの横には、宙に浮かぶ楔。
フルカの示す位置に立つと、楔の先端はほぼ真下を向いた。
「この下か――しかし、瓦礫が邪魔だな。
開閉口が、開くかどうか――」
{下に空間がある}といった感触。音の響き。
仮に扉があるとしても、崩壊の衝撃で変形している可能性もある。
なら、もっと手っ取り早い方法があるじゃないか。
わざわざ開けることも、すり抜けることもない――
『突破しましょう。
この程度なら、ボクが――』
「――待てよ」
――制止。意外な方向からの。
「どうせなら、[壊したやつ]にやらせてくれないかい?」
そう言って[荒れ狂う水禍だった者]は、獣のように笑った――




