74話【かたちというもの】
「――美しい――!
だが、これは……?」
『――言うならば、ボクの分身と融合させた形です。
多少、姿は弄れましたが――あくまで、女神の似姿が基軸のようです』
「――なら、お前にとっては実妹ということになるな。
それにしても美しい――あ、もちろん、お前もだ、メガリス」
状況だけで言うのならば、娘ということにも成りかねないが……そういうことにしてしまおうか。
「――ぁ……」
彼女が目蓋を開き、自分の手や足を見つめながら動かしている。
暫くして、ボクを見ると、少し怒ったような様子で、距離を詰めてきた。
「……おい、メガリス。
アタシを、一体――どうしてくれた?」
……さて、どうしたものか。
『……フルカ、鏡を』
きらきらと目を輝かせたフルカが、彼女に小さな手鏡を手渡す。
彼女は手鏡を覗き込み、目を見開き、そのまま[一時的機能停止]。
ボクは、出来る限り{神妙な顔つき}を作り、セタの手を握る。
『――つまり、こういうわけなのです。
その、[女神の眷属神]は――
どうしても、[女神の似姿]として創造されてしまうようなのです……』
彼女は沈黙を続ける。
女神と同じ顔は伏せたままだ。
『……セタ?』
左手で顔を覆い、すっと小さく気体吸入する彼女。
その口元は、どこか歪んでいて。
――笑っているように、見えた。
「ぷっ――ふ……ははははははッ!!!」
『 !? 』
「「 !? 」」
[* おや――? ]
突然、セタが笑い出した。
だが{狂気}は感じられず、どちらかといえば{狂喜}に近いものだ。
――いや、寧ろ。これは――
{怒り}と{希望}――?
「ハ――
……ふぅ」
『[確認:問題の有無]、セタ?』
「――ああ、大丈夫だ。メガリス。
ただ……あんまりにも可笑しかったんでな」
『……可笑しい?』
「ああ、可笑しいね。
よりにもよって――[女神の顔]とは。
――良い、悪くない。[最悪の皮肉]じゃないか!」
『……!』
笑み――{獣のような}。
己自身とも違う、女神とも違う。
彼女自身の、表情。
それは――即ち。
[確立した一個自我]
たとえ女神の顔であろうとも。
[近似別解の例示]
[近似値]
ならば――そう。
『――なるほど。
たとえ仇敵の顔でも――貴女は、貴女なのですね』
「――ハ、そりゃそうさ。
それと、この顔なら、一つ楽しみが増えたぜ」
『――と、言うと?』
「同じ顔で――
女神に一泡吹かせてやろうじゃないか。
なあ――同胞?」
素敵な着想に、ボクも{悪戯っぽい笑み}を意識して応える。
『同意――同胞』
【女神の顔で、女神に挑む】
一つ、するべきことが増えた――
――【生きる】ための因子が。
そして、どうやら。
ボクは――
――声を出して、笑っているようだった。
――と。
「――その……メガリス?」
ヘルの声。
いけない、少し――[夢中になっていた]ようだ。
『はい、ヘル。
失礼をいたしました』
「いや――いい。その、なんだ。
盛り上がってるところ、済まないが――」
――ああ、そういえば。ボクは――彼女を。
「早速、彼女を――私達に、紹介してくれないか?」
――紹介しなければ、いけなかったのだ――




