71話【”女神”なるもの】
「――冗談、だろ……アンタ、本気で言ってんのか?」
波打ち震える水球の姿。
{思いもよらなかった}といった心境が見て取れる。
『否定、あくまで推測でしかありません。
ですが、そうだとすれば女神の悪意も、ある程度の意味を見いだせます』
水球は表面上は幾らか凪いだようだが、水全体を濁らせ、困惑を隠そうとしている。
『まず、セタ。貴女は――
【海原の女神】――そうなるように産み落とされたのです。
女神によって、 女神の手によって』
「海原の――女神?
清水の□□□様みたいなものか?
それとも天降り水の□□様みたいな?」
『残念ながら、どちらもボクの[前世記録に該当なし]です。
ですが、それらが【水】に類する[神霊]ならば、おそらく似たようなものでしょう』
「そうか……だが、それなら何故、女神は。
【別の神様】なんてものを、創ろうとした?」
『簡単なことです。
【神が神を生む】――それこそが、正しく【世界の創造】なのですから』
「――っ!! 【神性創造譚】か!!」
『然り。如何ようにも例えられます。
・混沌が大地を生み、
大地から天空が生じた
希国の神話。
・裂け目の巨人を屠り解体して組み上げた、
海山岩花に雲天、柵に囲われた中つ国。
・はたまた渾沌撹拌し、出来た大地に来たりた祖神。
山川海産み木々を生み、火産みて斃れ冥府に至る――』
「……今度はアタシが知らない神様だね。
だが、要するに――」
【神は概念を産み、概念で世界は形を得る】
そういうことだろう、と水球は気泡を爆ざした。
『であれば、恐らく。
女神の目的は――【世界の創造】なのでしょうね』
「この虚空にか?
少なくとも、海は既に存在することになってるみたいだが」
『――虚空。
……虚空――?』
何か、足りないような気がする。
そう。足りないのだ、それだけでは。
虚空に世界を創り出す。
それは、おかしくはない。
少なくとも、神なる者の所業として、違和感を得る程の愚行ではない。
ならば――何が足りない?
「どうしたよ、メガリス。
何か、気になることでもあるのか?」
『是にして否……少し、気になることが』
「気になること?」
『肯定。
――[情報検索の開始]』
[対象単語【虚空】]
[記憶領域の走査]
[該当過多][指定属性付与:関連語句]
[類似:虚無][症例:虚空酔い][生息域:魔物]
[武装:内蔵兵装][乗物:潜空艇][対義語:大地]
――!
『――【大地】……!!!』
「――なッ!!?」
『嗚呼……漸く解りました――その[違和感]ッ!!』
「どうしたメガリス!
【大地】が何だって言うんだ!!?」
『【虚空の女神】は虚空に世界を作ろうとしている――
だが、虚空は世界に非ず。【外の世界】が存在する。
外の世界、かつて大地と呼ばれていたものの残滓。
今や浮遊島の小さな地方と成り果てた、
空に散らばる世界の欠片たち――今は無き、大地の落とし子。
――ならば!【大地】とは――【大地の女神】は、何者か!!?』
「落ち着け暴走機女!
大地の女神……? そうか、そりゃあ居ないとおかしい。っても――」
『そう、大地は砕け、粉々散り散りになりました。
ならば、【大地の女神】は生きているのか?
それとも死んでいるのか――分からない』
「今や[大地]なんて概念は世界に存在しない。
だったら、死んだのか、別の概念に変質して生きてるのか。
――じゃ、ないか?」
『浮遊島の女神が存在する――?
なるほど、そういうものなのかもしれませんね』
[異常発熱の冷却完了]
[体内気体の経口放出]
[想起:一件]
ならば、ヘル達の計画は――?
浮遊島を繋ぎ合わせ、かつての大地を蘇らせる――【世界再編】の計画――
これは――
【大地の女神】を再顕現する行為なのでは……?
どこか不吉な解読不能情報が、ボクの電子頭脳だけで響いた――




