69話【神苑に踊るは深遠なる神意】
「[同じ境遇]。
――そう言ったな、メガリス」
{怒気}とも{恐怖}とも違う、揺れ動く感情行動。
水球は、言葉を続ける。
疑いを問い、晴らすために。
「だったらアンタは、アタシの何を知っている?」
推論は既にある。
応えればいい、答えればいい。
それはきっと、己自身と同じことだ。
『[女神]に[此の世界]へ連れてこられた。
――違いますか、セタ』
――次の、言葉を待つ。
反応は、おそらく{安堵}。
幾許かの{哀れみ}{同情}。
――そして、{共感}の意思。
「――ああ……やっぱり――そう、なのか……。
つまり、アンタもそうなんだな。メガリス」
『肯定、セタ。
[今や鉄人形たる己]も、かつては――
……[この世界]ではない、[別の世界]に生きていました』
嫌な記憶、思い出したくもない記憶――否。
【忘却さえ許されぬ記録】が、電子頭脳に……瑕疵無く、完全再現される。
酷く小さく薄ッペラな前世の記憶が開き――
――走馬灯は、宝珠車めいて高速回転する。
撓みに撓み、歪みに歪み。大いに響みて崩れて堕ちる。
巡る歴史は流れる儘に、拡散を経て収束する。
そして訪れる全ての終わり。前世自我の消滅。
その最後――否、終焉を越えた先に現れた、■〓〓〓◇〓_、モノ。
〓〓は、ボクに言った――
「――{¿ 〓〓■、〓〓〓■〓■〓〓〓〓 ?}」
『っ!!!?』
――そうだ。
その言葉だ。
女神に会った時、女神は――
「……そう言った筈だ、あの女神は」
『――肯定、一言一句違わずです。
やはり……あなたもそうなのですね?』
彼女は{肯定}する。
「ああ……死の瞬間、女神に会った。
――そして、問われた。先程の問いを」
問うべきか――問わざるべきか。
……否、問わざるを得ない。そうするべきだ、誰にとっても。
『……あなたは、どうしたのですか?』
「――怯え、震え、狂乱した。
信じられるわけ無いだろ。
〓〓、アタシの知ってる神じゃない」
……?
微細な認識の差異。
あるいは[文化圏の差]によるものである可能性の提示――
……そもそも、[彼女の世界]と[ボクの世界]が同一世界である保証などない、か。
むしろ、別個独立世界とする方が自然だ。
――ボクの知る限りでも、現世界と前世界はあるのだから。
ボクの思考をよそに、彼女は続ける。
「女神はアタシに――あたふたと、説明を始めた。
{キミは死んでしまった}
{ぼくの世界に来るといい}
{そこでなら、きっとキミの願いも叶う}って具合にな」
『そして――{¿ ■〓■〓■〓、■〓■〓、■〓〓〓〓〓〓 ?}』
「そう――! {i ■〓〓■〓■〓〓〓〓〓〓。■ 〓■〓〓■〓〓 !}」
願いの要求、希望の要求。
詫びでもなく、戒めでもなく。
{キミの願いを叶える}と言った。
どこまでも妖しく、奇妙で、奇怪な問答。
だが、抗えはしない。
あれ程までに恐れていた――【死】
死の最中でさえ、逃れようと足掻き、藻掻き――受け入れ難き、死。
そして、【生】を与えようとする女神――
――抗えるものか。抗えるものかよ。
例え女神であっても構わない、ボクは――
――ボクは、願った。
【生命】を――【強さ】を!
それを得られるのなら【何であろうと構わない】と――!
「――メガリス?」
――おっと、いけない。
情報伝達が無音状態へと至ったらしい。
『――思い出していました。
女神の事と、死せる自我のことを』
「ああ……そりゃ仕方ない。
アタシも、思い出したくない事さ」
『……聞いても、よろしいですか?』
「……つまらない話さ」
『それでも、聞きたいのです。知るために。
――女神が、どう"在"るモノなのかを』
「……それは、アタシも知りたい。
なら、交換条件だ。アンタの【願い】の話と交換――それでどうだい?」
『……願い?
それが、重要な点になり得るのですか?』
「そうだよ……少なくとも、アタシは。
そう[願った]から流動液体塊になった。
――それだけは間違いないよ。」
『!!』
「女神が何を考えてるのか知らないが、
要因結果のかの暗示ぐらいにはなるだろうさ」
『肯定、確かにそう言えるでしょう。
……ボクの[願い]は――』
繰り返される記録遡行は、苦痛と共にあり――
――そして、少しだけ。
気分が、楽になったような。そんな気がしていた――




