67話【獅子身中蟲下し】
『【腕に抱く造兵工廠】――閉鎖』
一粒の水さえ見当たらない乾いた部屋の中で、ボクは造兵廠を閉じた。
あれ程あったはずの水――魔人は影も形もない。
そこにあるのは、楕円体状の鉄血塊。
これは、何と言いうべきだろうか――
――そうだ、【救命球体】とでも呼ぶことにしよう。
『【救命球体】――解除』
名付けたばかりの新兵装を解除する。
中身はもちろん――
「――メガリス! お前は――何をやった?」
「ビックリしましたよー! 急にメガリスさんの兵器? に包まれて……」
[*想定外、そう言う他ありませんね……無茶をしたものです、メガリス嬢]
[ヘル、フルカ、オーチヌス]だ。
『……申し訳ありません、ああするのが最速と判断しました』
「いや、それは良い。少なくとも、未だ命があるのだから。
私が聞きたいのは、むしろ――[どういう風にやった]かだ」
――おや、そちらがお望みか。
まあ良いさ、話が早くて助かるじゃないか。
さすがは我らのお嬢様。
機体のやり方にも、理解を示してくれている。
ありがたいことだ――ボクの素敵な義姉さま。
さて、それでは簡潔に――ただ一言で言うならば――
『[水=敵の本体]を、吸い込みました。
ボクの、【腕に抱く造兵工廠】……その中にある、【虚空】に』
「――なんだと!? それでは――」
{「お前の中に、【魔物】が居るのか」}と続けるであろう言葉を遮り、ボクは静止の言葉を投げる。
『いいえ、お待ち下さい。まだ[捕獲]は完遂していません』
「……確かに[捕獲]は命じた。
だが、屈服させてもいない【魔物】を、機体の中に入れるだと? 危険すぎる!
仮に、【肉体掌握】系の魔法でも使われたらどうするつもりだ?」
……いけない、その可能性もあったか。
だが、ボクの造兵廠の【虚空】は一種の閉鎖空間だ。
ボクの電子頭脳に干渉することなど、一切合切許されない。
だが、どちらにせよ。
ボクはまだ、魔人にするべき事はあるのだ。
「然り、故に――屈服させに往くのです。
ボクの――そう、分身体に!」
両腕を掲げ、閉じた状態の造兵廠を見せる。
――まあ、何も見えることはないだろうが。
[*端末を、自身の内部に?]
『肯定、艦。
貴方の、内装保持用小型機械人形のように』
[*成程。であれば、機人として何らおかしな事はありませんね]
「……つまり――お前の分身体を、囚えた【魔物】の所へ送った、と。
そういうことだな? メガリス」
『肯定、ヘル。
[造兵廠内虚空]で、奴を――
――屈服させ、無力化し、情報を奪い去ります』
「そうか……メガリス、出来るのか?」
『無論です。
分身体は、それを成し遂げることでしょう』
「……わかった、良いだろう。メガリス。
だが。もし、お前の体が奪われるようなことになれば――」
『その時は――どうか、ボクに[適切な処理]を。
少なくとも、貴女を傷つけることだけはなくなります』
「っ! ……わかった、【月撃ちの芽胞】を備えておく。
――だが。私も、お前を操り人形になどしたくはない!
奴を、完膚なきまでに屈服させてこい! ……いいな?」
『肯定!』
そして、ボクは、分身へと変わる――
[思考の切り替え]
[main=xx2_dpl]
[<void> main]
[【虚空】への存在代入]
切り替わる視界。
一面に広がる、ボクの虚空。
――視認できる。
水は球状に纏まり、怯えるような振動を見せる。
……さて。
――どうして、呉れようか――?




