66話【それは魔法のように】
水底、水中、水の中。
ボクとっては大した極限環境とは言えるものではない。
――だが。
うごめく水は舐め回すような動きで全身を這い回り、感知器は執拗に警告を発する。
明確なる敵意を込めて、ただ只管に水は畝る。
やってくれたな【魔物】――
――この水全てが、魔物とは――
そもそも、最初からだ――
ボクは、ヒト型女性が本体だと思わされていた。
だが……そもそも、最初に戦っていた【水球状の魔物】――あれが、本体だったのだ。
推定――水、液体としての水の性質を持つ【魔物】だ。、
そして魔物が、女性に取り憑き――操作していた。
――おそらく、其れこそが先の【魔人】の正体だ。
尤も、女性の方とて、何者か知れない[正体不明]だ。
魔物が再生を止め、女性の肉体を放棄した理由は?
――単純なことだ。
[この方が強い]……ないしは、[確実に仕留めるための形態]ということだ。
――しかし、これを……どう、撃退する?
[電極]を生成し、水たる魔物を分子分解にする?
――悪くない。が、懸念事項がある。
[推論:水としての特性が"液体"だけでない]可能性。
この場合、幾ら空気にしてやったところで、今度は空気がボクの敵になる可能性がある。ということ。
加えて、ボクの認識している水と、
この世界における"水"という"存在"に乖離がある場合。
……その可能性は、未だ検証していない。一切だ。
となれば、そもそも通用しないという可能性が常に付きまとう。
今この状態で、試すべき選択肢としては、精々が中の下だ。
ならば、他には――
切断? ――不可能。
粉砕? ――不可能。
超高熱による蒸発? ――要検討。
排水行為? ――地形破壊によって排水可能である可能性。
吸引? ――危険だが、要検討。
……待てよ。
これは――同じだ。あの時と
『――ああ、なるほど』
【空間】そのものが、自分自身を害するのなら――
『――【腕に抱く造兵廠】――』
【虚空】の様に――自己領域拡大してしまえばいい――ッ!
『 【全鉄血解放】!!! 』
ボクの開いた両腕から、ボクの【内なる虚空】から。
途方もない量の鉄血が――溢れ、零れ、噴き出て――満ちる。
流れる鉄は止まらない。
ボクの周りを囲うように、
水底であった筈の戦場は、少しずつ、少しずつ――流体金属の鉄量に押し退けられる。
……仕込みを入れるなら、今だ。
これはきっと――そうしなければ、不味い。
鉄血の一部だけを別運動させ、密かに準備を整えていく。
――誰かの、困惑を感じた。
{「いったい、なにをするつもりなのか」}と。
――決まっている。
『――魔人を倒す』
そして――
『魔人を囚え、何もかもを喋らせる』
『何もかも――何もかもだ!!』
![ 〓〓_〓〓〓=〓〓! ]i
嘲笑、嬌笑、狂笑――嗤いながら、魔人は続ける。
![ やッてみロよォ、〓〓ィィィ!!!! ]i
――最上等――どうしようもなく上等だ。
やってやろうじゃないか。
出来ない理由などあるものか。
水底には鉄血が満ちている。
私の【世界】だ。
――ならば、出来ないはずがない
【魔法】のように――
『――【腕に抱く造兵廠】……』
ボクは、展開したままの造兵廠を掲げ――叫ぶ!
『 【完全吸引】――!!! 』
そして、何もかもが――
――ボクの【虚空】の中へと、飲み込まれていった。




