65話【イモータル】
「もうすぐ双玉の位置ですっ!」
[*つまり――間もなく着水となります]
「準備は良いな! {変容の否定}と
{物体の保護}は有効――水中戦になるぞ!」
『【推進装置】【対虚空飛翔翼】の展開を完了。
――いつでも行けます。十分に』
「良し――行くぞ! 分身体の所へ、突入する!!」
本体たちは――落下していた。
前にも見たヘルの散術式――【砂葬靑山】で、地下へ向かって。
最早距離確認は瞬く間だ。
分身体ここに居る!
[*階層差[1]――直下です。皆様!]
「ああ! ――突入だ!!」
総員、肯定の返答。最後の床を抜ける。
――刹那、視界が変わる。
圧力の変化、体外温度の変容、光線反射の減衰――
――僕らは着水し、水底の戦場へと突入した――
![ アンタも一人ジャないんだねェ、〓〓サマ…… ]i
![ ああ呪わしくも呪わしい! アタシと同じメに会えば良ィ―― ]i
![ 孤独! 離隔!無縁!! 〓〓も、ヒトリに――!! ]i
『[排除すべき雑音]――魔人の相手はボクだ。何度言えば[理解可能]?』
【赤熱剣】を突き立てる――だが、大した効果はない。
切った側から、再生している。
再生能力――その限界はあるか? 任意か? 自動か? 何らかの条件を有する可能性は? どの程度の破壊までなら再生されるのか?
あるいは――ただ、いくらでも治せるのか?
試す必要がある。とにかく今は――破壊の時だ。
『[検索項目]――
[対中型生物]
[効率的破壊]
[切断破砕]
[高速起動]
[耐水性能]……』
本体は造兵廠に伝達命令を与える。
今必要なものは――純粋な、破壊力!!
本体が兵装を展開する間、そこには僅かな時間がある。
魔人の行動を許す理由はない――ならば!
『[左腕部分離]――[兵装組み換え]……[変形]!
――【爆導索】!!!』
右手に握った鎖鉄球状の武装――だが、その先端は鞭のように長い鎖で。
そして、その鎖には――無数の炸裂弾が、荊棘のように突き立てられている!!
![ ナ――!!? ]i
即座の束縛、ただし炸裂弾は爆ぜさせない。
なぜなら――
『[起動完了]――【動力式高速回転刃】!!』
――本体が居る!!
![ ……クッ――〓-〓_〓――! ]i
魔人は詠唱を始める。
だが、そんなものは――
『『――遅いッ!!』』
『超過駆動――』
『棘式炸裂弾――』
然り、本体/分身の方が――
『――大切断!!!!』
『――起爆!!!!』
――速いッ!!!
爆音、炸裂音、何かが焼ける音、爆ぜる泡の音、金属の重低音――
――名状しがたき混沌の如き、疾走する音響。
押し寄せ、引き寄せ、打ち沈め捻れる――
――水は執拗なまでに撹拌され、遍く全てを等しく酔わす。
著しく劣化した視界。濁り果てた水。
もはや何一つ見えず、視界はその価値を見捨てられた。
『【音響式探知機】――』
[やったか]――否、そんなことがあり得るものか。
魔人はまだ生きている。その筈だ。
根拠はない、そんなものはない。
魔人はそう簡単に死ぬものじゃない。
理由は分からないが、そういうものだと確信がある。
……解らない。何故確信できる?
[未知なるもの]は[未知なるもの]でしかなく、[既知なるもの]へと昇華させる他はない。
でなければ――それは、[既知なるもの]だ。初めから――知っていなければならない。
電脳書架には当然、該当するものなど無く。
知り得る機会は、今この時を於いて他にはない。
――解らない。
私は、何を、知っている――?
――[動体反応]――
……まあいい、そんな事は後回しだ。
魔人を捉え、捕らえ、囚える――それこそがボクの任務だ。
――[動体反応]――
――[動体反応]――
――[動体反応]――
探知機が多数の位置での反応を示す。
ヘル達だろうか。少なくとも、この水の中に居る筈だが――
――その時。
部屋そのものが、激しく揺れる。
否――揺れているのは――
『――水、が――!!』
然り、己の意思で形を変え、揺らぎ震えているのは――この、水そのもの!
『――成程、そういう事か……!』
ボクの声に応えるように、揺れ動く衝撃が耳を打つ!
![ アタシの世界へヨーコソ――〓〓サマぁ! ]i
奇怪極まる波長振動を響かせ、魔人は勝ち誇るように嗤った――




