64話【生命の渦の中で】[side:dpl]
斯くも禍々しき大渦巻から藻掻き抜ける。
圧し折られた赤熱剣を回収しなければ。
このままでは段階的不利――全身を削ぎ落とされて鉄血を失うことになる。
分身体の完全崩壊は致命的損失ではない。
本体から、一定量の鉄血が失われるだけだ。
だがそれは同時に、限りなく致命的だ。
鉄血を、補給する術など無いのだから。
……少なくとも、今は。
幾ら機体内に極大量の鉄血があるとしても。
鉄血自体は決して無限量というわけではないのだ。
いずれは、【補給】についても考える必要がある。
ああ、全く……そこかしこの金属片か何かを取り込めればきっと容易いだろうに……。
![ ヨユーだねぇ〓〓さまァ! アタシも遊びたくなってきちゃったぁ! ]i
魔人は狂笑すると、部屋中に満ちた水が不規則振動を始める。
![ ――〓-〓_〓-〓――! ]i
空間の歪み――虚空が、開く時のような。
しかしそこには何の間隙も無く、ただ揺らぎの中から力のみが打ち出される。
それは魚影にも似て、あるいは羽を広げた黒鳥めいた影像の追尾弾。
仮にそれが【魔法】によるものならば――謂わば[魔的誘導弾]のなのだろう。
『――【推進装置】!』
脚部に展開した水中用の推進装置を高速回転させ、回避体勢を取る。
接近――後方加速――影弾は――なおも追尾!
このままでは――!
防御か、防衛的破壊か、何もせず只受け入れるか――
――否!!
『【拡散欺瞞弾】――!』
脚部の鉄血を瞬間分離――そして、急速に飛散する!
飛び散った鉄血片が粉砕、拡散され――
――影弾は、それを当機と誤認する!
爆音、振動、押し寄せる水の圧――だが、そんなものはボクには届かない!!
推進機で距離を取り、再び魔人に向き直る。
逃避の果てに手にしたのは、また別の部品――!
ボクは赤熱光を発する短剣を向け、居丈高に挑発する。
『この程度ですか? 魔人』
嘲りの表情は作れているか? 声の高低は上出来か?
がっかりして、バカバカしいと、そう聞こえるように喋れているか?
名前を呼ぶ――これも効果があるはず。
【敵対者】から、大事な――おそらく、だが――名前を、呼ばれるのだから。
激昂しても、何もおかしくはない。
![ ――!!! ]i
だが――これは……?
![ アァっ……やっぱり――〓〓――〓〓だ――〓〓だ――ッッ!! ]i
![ アタシ相手にこんなマネをする奴なんて――〓〓以外に居やしないっ! ]i
![ アンタは〓〓――!! 確信したよ、アタシは。 ]i
![ どうしてアタシをこんな形にした? ]i
![ どうしてアタシをあんな所へ連れてきた? ]i
![ どうしてアタシは死ななきゃならなかった? ]i
![ どうしてアタシはこうなってしまった? ]i
![ ――教えろ――答えろ!! ――言えよ、〓〓ッッ!! ]i
『 ――知ったことか 』
これ以上の対話は無駄だと判断可能――というより、そうするしか無いようだ。
僕は女神ではなく、あくまでただの兵器だ。
それを女神だと誤認して……あまつさえ、怨み言を聞かされるだと?
――とんでもない。
それは、ボクの権利だ。
魔人の怨みが何であろうと……ボクにも女神への憎悪がある。
怨みは、果たされるべきものだ。
ならば――
――邪魔をするなら、容赦など要らず――
『来いよ、泣き虫――
――無音、無力化してやる――』
切り放った啖呵、硬直する敵性存在。水底は、不気味なほど静かで――
頭上より近づく、その何かは。
その直後に、着水した――




