63話【奈落へと至れ】
「散術式 【境界渡り】――!」
暗がりでもほのかに輝く金色の煙の中から、ヘル達が姿を現す。
『ここで漸く、入り口ということになるのでしょうか?』
筒状の柱の内側、螺旋階段の底。
底には扉もなく、先へ進めそうな場所はない。
現時点で危険はない。
故に、粉末弾を破裂させたのだ。
さて、足元には完全に閉じた亀裂のようなものがあるが、これを壊し進むのだろうか。
「ああ、この蓋を移動させれば目的の【遺跡】だ」
『蓋……? この足場の事ですか?』
――では、打ち砕きましょう。
そう続けるも、ヘルは首を振る。
「いや、都市長に借りた鍵がある。
確か、この亀裂の――ここだな」
足場の中心付近、一つだけやけに目立つ亀裂の中に。
ヘルは何やら、桃色の石のようなものを差し込む。
『これは……!?』
足元の亀裂が、広がる。
いや、これは――"開いている"?
「準近代文明様式の螺旋解錠門だな。
水陸棲人種の利用に適した形式の」
[*であれば先には溜水があることでしょう。
その様式なら建造物全てが水に浸かっている場合も珍しくありませんし]
「でも、この真下に今、水は無いみたいですよ?
どこか別の場所に移動してるんでしょうか?」
『分身体が現在、水中戦闘に持ち込まれました。
あるいは、その影響かもしれません』
アンフィビアン……確か、電子書架にあった。
いわゆる水中人、人魚、河童――
そういった類の、主として水中生活を行う者たちということだ。
ならば彼らの遺跡が水に満たされたものであっても、なんら不思議はない。
いま分身体が戦闘可能な以上、水中行動に問題はない。
「――そうか、急がなければならないな。
行くぞ、メガリス、フルカ」
ヘルはそう言うと、目の当たりになった下階に飛び降りる。
いくらかは高さがあるが、どうやら全く問題にしていないらしい。
フルカは端末を抱えたまま、目をつぶって飛び降りる。
どうやらヘルが受け止めたようだ。もちろん誰も怪我一つ無い。
最後にボクが飛び降りるが――黒翼を展開したままだったので、脚部緩衝装置の世話になる必要さえなかった。
下階はどうやら通路のようになっているようだ。
というより、むしろ――配水路、その方が適切かもしれない。
「メガリス、もうひとりのお前の居る場所はどこだ?
フルカ、念の為、双玉の反応を」
『[ping...]、現地点を基準として、前方にYY区画、下方にZZZZ階層。
平面座標位置、それ自体はさほど遠くはないようです』
「えーとっ、はい! おおむね同じぐらいの場所だと思います!
ちょうどそこの通路から行けそうです!」
「うむ。ならば――アレを使うか。
まずは、分身の真上の位置へと向かうぞ!」
『肯定』
「はいっ!」
[*了承]
おおむね想像はつく。初めて見せてくれた、あの魔法だろう。
とにかく、急がなければ。分身だけでは些か手に余る相手だ。
――しかし、それにしても。
あの【ヒト型の魔物】――仮に"魔人"とでも呼ぼうか。
彼女は、何者なのだろうか……。
思考は再び、水底へ向かう――




