61話【闇への飛翔】
[状況判断]
[内包記録書架の走査]
[情報提示要求:外見的特徴]
――[一頭][双腕][双脚]...[双眼][単鼻][一つ口]...[棒状の長柄武器]...
...[尾無し][頭髪らしきもの]...[甲殻あるいは鎧][表皮あるいは布状の衣類]...
...[体高:規格無し、代用表現]
...[体重:飛行状態のため測定手段なし]
[情報を元に推定]――
――【人型知的生命体】
『……分身体がヒトらしきものと交戦中です。
ヘル、ボク達に[ニンゲン]の敵対者は存在するか?』
「――いない。
少なくとも、我々の知り及ぶ限りでは」
『……では、やはり。
[視界共有、送信]――【魔物】なのでしょうか?』
[*――何と、これは――]
艦の端末に、分身体の見ている情景が映し出される。
「――やはりか! 奴だけではなかった……!」
『ヘル? 知っているのですか!?』
「父を襲い凍結封印したあの魔物の同類ッッ!!
暫定名称――【ヒト型の魔物】ッッ!!」
ヒト型の――【魔物】?
『……【魔物】、なのですね?
そして、それは――ヘルの【敵】ですか?』
「……敵だ。……おそらくは。
だがまだ、連中のことは何も分かっていない。
必要なものは、何よりも――【情報】だ」
なるほど、そういうことか。
――ならば、どうする?
『[命令承認]』
――決まっているだろう。
『――[敵性存在]を無力化し、捕獲します』
――情報を、奪取するのだ。
「ああ、頼んだぞ。
……だが、お前の分身だけで、大丈夫なのか?」
『無論です。
……ですが、万が一と言うことも在り得ます。
――可能な限り、合流を急ぐ。そういう手を取る意味はあるかと』
「勿論だ、メガリス。先を急ぐぞ!
フルカ、双玉の状態はどうなっている?」
「はい! 分身さんの居場所は、[かなり下の方]ですっ!
下の階層に進まないことにはそれ以上わからないですっ!」
[*であればまず、距離を詰める必要があるかと。
この螺旋石段を下りきり、遺跡までたどり着かなくては]
「分かっている。だが下り切るよりは――フルカ、また頼めるか?」
「う……この暗さだと、当てる自信がありません。お嬢様。
【星空の住人】が使えれば良かったのですが……」
「ああ……暗視の術式か。アレにはコツが要る、そう気に病むな。
……【光蘚の園】で全体を明るくするには――時間がかかりすぎる。
【天地自在】なら……いや、歩く事には変わらないか」
『いいえ、ヘル、フルカ。もっと単純な方法があります。
フルカ、魔法の粉末の入った弾丸を貸していただけますか?』
「? はい、大丈夫ですけど……」
「何をするつもりだ、メガリス?」
『――これを、ボクが下で散らしてきます』
「……待て、危険だ。
下に何があるかが分からない」
[*お嬢様、メガリス嬢は飛翔能力を有しております。
万一の場合、離脱し帰還するのは容易かと]
『はい、危険があれば即座に撤退可能です。
今の時点では、これが一番手早い方法かと』
「……わかった。頼む、メガリス。
何かあれば、すぐに戻れ。いいな?」
『はい、では――』
[【造兵廠】追想読み込み]
『命名【対虚空飛翔翼】
――展開!!』
左腕部の造兵廠から放出された鉄血がボクの後背部側に集まり、一対の黒翼を形作る。
体がふわりと浮かび上がる。
地の呪縛から解き放たれ、滑るように中空へと移動する。
螺旋状の石段を離れ、筒状の空洞へと目線を向ける。
その先は薄暗く、仄暗く、暗い昏い闇そのものが凝り固まっている。
ボクは両脚を上げ、頭が下にくる体勢を取り――
――闇の底への、飛翔を開始した。




