59話【領域組成のアッセンブラ】
――違う――!
――女神を、知っているのか――?
――お前は、何者だ――?
――お前は、どこから来た――?
錯綜する思考、言葉。されど、それは一言たりとも放たれず。
ただその眼を見つめる以外、何も出来なかった――
「――」
『っ!?』
何事か呟きながら、再び崩れ落ちる少女の体。
とっさに左腕部で抱きかかえる。
――異様な軽さ。
触れれば容易く捻じ切れそうな、あまりにも脆弱な体。
……警戒自体は杞憂。そう判断していいだろう。
――だが。
『――女神。
奴を――知っているのですか?』
「――」
返事は、ない。
どうやら、意識を失ったようだ。
……しかし、どういう意味だろうか。
聞き取れた言葉、断片的な文言。
"女神さま"
"どうか"
"お赦しを"――
どちらにせよ、このまま放置する訳にはいかない。
錯乱状態の言葉であるかも知れないが、ボクにとっては聞き逃がせない単語なのだ。
まずは、この少女を背負って、本体と合流を――
「――メガリス、どうだ? 向こうの様子は」
ボクに話しかけたのは、ヘル――ならば、こちらは本体だ。
機体が2つあるというのは、やはり少しばかり奇妙な状況なのかもしれない。
『はい、ヘル。
一度意識を取り戻したようですが、すぐにまた意識を失いました。
なんらかの治療行為が必要である可能性があります、それと――』
「それと?」
『はい、幾つか気になる単語が。
うわ言のような言葉ですが、推測の手がかりにはなるかもしれません』
「少なくとも、話は通じそうだな。
どんな単語だ?」
『はい。
"女神さ――』
――突如、鳴り響く駆動音。
周囲の壁が振動し、石や金属の軋む音、擦れる音、互いにぶつかり合う音が鳴り響く。
「!?」
――堕ちる感覚。
それも、半分だけ。
『これは――!?』
否、これは降下だ。
足場が、滑るように組み変わり、深い深い闇の底へと運搬されていく。
逃れようにも、分身は――舌先ひとつ動かせない。
なにかやわらかいものに包まれているかのように、動きは著しく遅れ、跳躍も飛翔も望めない。
こうならば、分身を【造兵廠】に――
――否、それも出来やしない。
背負った少女、気を失った少女、即ち――女神に繋がりうる情報源!
それをむざむざ……失うわけには、行かない!
であるならば――いっそ――!
「不味い、メガリス! あれは罠――[空間組換]だ!
建物内の別の場所に、強制的に輸送されてしまうぞ!」
移動系の罠――よし、それなら――【死ぬことはない】!
「構いません! 分身は後で合流できます!
可能であれば――なにか[役に立つ魔法]を!」
「急に言われても困る!
だが……フルカ! 頼んだぞ!」
フルカの方を見やると、いつもの動きからは想像もつかない速さで弾薬を装填し、分身を狙って――撃ち放った!
「[番貝の双玉]ですっ!」
「貴重品だな……すまないフルカ、何も考えつかなくてな」
「大丈夫ですお嬢様、また手に入れるだけのことですから!」
『……ところで、フルカ。
それは、どのような弾なのでしょうか?』
「――え、はい。え~っと……艦! 【情報展開要求】!」
[*肯定、端的に言うならば[互いに引き合う性質]を
持った[二つ揃いの弾丸]ということになります]
自分で説明するよりは、と思ったのだろう。
フルカに説明を委託された艦が続ける。
[*用途としては幾つか。
玉そのものは、[互いの位置の分かるお守り]として。
投射物としては、[一撃を加えた獲物に、確実な二撃目を]というのも。
その派生として、[一度当てた相手を、追跡する手がかりに]などがあります]
『つまり、これでボクの分身の位置が分かるようになる……ということですね?』
[*肯定、その考え方で宜しいかと。
原理自体は、もう少しややこしい物ではあるのですが]
「とにかく、そういうことだ。
探すのが幾らか楽になることだろう」
楽になる、それは確かにそうだ。
分身の方でも感覚はあるし、機体は動かせるが。
[今どこに在るのか]ということは、[相互通信時間]で凡その距離を測ることしか出来ない。
猫の手で藁をも掴む……というのも、まあ悪くはないだろう。
さて。
そうこうしている間に分身の居た足場は完全に組み替えられ、
本体たちとは大きく離れた位置に移動してしまったことが分かる。
分身の視界は真っ暗で、何も見えない。
しかし、下に向かって移動していることだけは分かる。
どちらにせよ、ヘル一行の目的地は、
この柱の遥か下、謎の古代遺跡の最奥部なのだ。
只々下っているのなら、かえって好都合じゃないか。
分身も、有効活用する他ない。
……しかし、まあ。
機体が二つ、というのも。
なかなか、大変かもしれないな――




