5話【姿容(すがたかたち)】
菫色の長い髪。
金色の、猫のような目。
まっすぐに通った鼻梁に、綺麗なタマゴ型の輪郭。
ぽかんと空いた口からは、白い八重歯がキラリと覗く。
白磁のように艶やかな肌、しなやかな肉体。
人工物とはとても思えない、柔らかで生気に満ちたボディ。
――女神に、そっくりな。
"ヒトは、いつだって自分に似せてロボットを作る。"
どこかで、そんな台詞を聞いたことがある。
思えば、それは神とて同じことなのだろう。
"アダム"も、"プロメテウスの子ら"も、"アスクとエムブラの番い"も。
被造物としての人間は、いつだって"神の似姿"だ。
――だが、だからと言って。
『女神……ッ! 自己愛陶酔者め……ッ!!』
ヒトを、"自分そっくりの姿"に創り変える奴が何処に居る……ッ!!
「――!? ど、どうした?」
おっと、いけない。取り乱してしまった。
だが、一つ。大事な目的が出来た。
『いえ、失礼。[過熱状態の回復]』
『……それより、一つ。思い出したことがあります』
「ふむ……聞かせてくれないか、メガリス?」
『……これと同じ顔を、見たことがありますか?』
自分の顔を指差し、問いを投げかける。
「……いや、すまない」
「少なくとも、私の知る人物に、そこまでの美人はいないな」
知らない、か。
まあいい、少なくとも、手がかりは手に入れた。
似顔絵や顔写真などより、遥かに上出来な。
ああ、後悔させてやろう。あの女神に。
ボクを、わざわざこんな姿に創った事を――!
更に言うなら、さっきまで折角格好をつけていたのが、台無しになったことも恨めしい。
そして、少なくとも一度は殴りつけなければ気が済まない。
【あの女神を殴る】
それを目的に、生きてやるとしよう。
無目的に世界へ臨むより――その方が、ずっとマシだ。
……ところで。
『すみません、ヘレノアール嬢』
『その表現は、その』
『こそばゆい、ので……止めて頂きたいのですが』
なにかこう、胸のあたりがムズムズする。
感情を持つ機体との事だが、そこまで高感度のものである意味があるのか……?
「む、そうか? 美人を美人と言って、何も問題はあるまい」
「それとも……ああ、なるほど」
「可愛い、と言って貰いたかったのか?」
『違います、止めて下さい』
後ろで、片眼鏡の少女が『きゃぁ~!』とでも言いそうな表情で身をくねらせている。
……よもや、このお嬢様、天然モノのたらしでは……?
そんな事を、考えていた。
――直後。
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耳が、肌が、直感が、ありとあらゆる検知器が。
"何者かの接近"を、高らかに告げていた。