53話【世界再編】
『……探求行、ですか?』
「ああ、また、潜空艦で虚空を旅することになる。
今回の目的地は――」
『――待ってください、ヘル。
その前に――そこへ、"何をしに行く"のですか?』
「……待ってくれ、まだ――」
ヘルはそこで言葉を切る。
"言えないこと"、なのだろうか。
もし、言えないのなら――それはそれで、構わない。
ボクは兵器なのだから。
そして、撃鉄を落とす引鉄こそが、貴女なのだから――
「――いや、お前たちには言っておくべきだな。
聞いてくれ、二人共! ……ああ、オーチヌスもだ!」
……艦が、居るのか?
[*――ええ、私はこちらに]
見ればフルカが石版状の黒い発光体を左手で掲げていた。
どうやらアレは潜空艦の端末――なのだろう、恐らくは。
『便利なものですね、オーチヌス。
私にも出来ることなのでしょうか』
[*はい、恐らくは可能でしょう。
純粋に通信機能を中継しているだけの技術ですので。]
そういうものか、何らかの機能を分離して自律行動……などということも出来るかもしれない。
一度試して見る価値は、恐らく大いにあるだろう。
『ありがとう、オーチヌス。
そしてヘル、教えてください。
この探索行の"目的"を!』
「……順序立てて、説明するのは苦手だ。
だからまず、最終的な目的から始めよう」
すぅと、息を吸うヘル。
気を落ち着かせている……それだけ"重要"な話、その可能性。
「まず私の――父の、兄様達の……つまり、エデルファルト家の目的は。
[世界再編]――この"虚空の世界"を繋ぎ直し、
かつて【大破砕】によって失われた、["唯一つの大地"]を取り戻すことだ!」
「そ、そんなことが出来るんですか!? ヘレノアール様!?」
『繋ぐ――それは、浮遊島同士を、ということなのでしょうか?』
[*御伽話のような不確定伝承、非常に興味深いですが、方法はあるのですか?]
「ある。可能だ。そして浮遊島同士を結合する手段も――既に、発見されている」
ヘルはいつの間にか背中に背負っていた木箱の中から、長い小剣の刀身のような――
――否、酷く、恐ろしく、禍々しく、どこまでも真っ直ぐに捻じくれた。針のようなものを取り出した。
「これは――【"識"たる楔】
【大破砕】に於いて、世界を砕いた、その元凶の一部だ」
『――!? そんなものが――現存していたのですか!?』
[*四方や、実在していたとは……書架情報に追記を加える必要がありますね]
「ああ! 前に探してたのってコレだったんですね。これを何に使うのですか?」
「有るものは有る、それは確定した事実だ。我々は現時点で、三本の"楔"を手に入れることができた。
これは――浮遊島同士を一つに繋げることが出来るモノだ」
『……それで、全ての浮遊島を繋げてしまえば、嘗ての大地を取り戻せるはずだ、と?』
「それはまだ調査中だ……。
何しろ、道具自体が希少品でな……。
実際に浮遊島を繋ぎ合わせた事は、未だ無いんだ」
「……それって――大変なことですよ!
定着した浮遊島ごとの支配体系が、バラバラになっちゃうじゃないですか!」
[*ですが、ヘレノアールお嬢様。
貴女はこう言うのでしょう
{「そんなことは、覚悟の上だ」}と]
「……そうだ。
恐らくは今の、仮初の平和を打ち砕くことになるかもしれない。
だが……私は、私達は――"見たい"のだ。
嘗ての世界では当たり前に在った、[大地のある世界]を――!!」
ヘルの力のこもった拳が高らかに掲げられる。
……どうしたもの、だろうか。
ボクはまだ、この世界のことなんて、何一つ知らない。
知っているものは、空と、虚空と、小さな欠片の浮遊島ぐらいだ。
ヘルは、ヘル達は。大地となった世界が見たいという。
……ボクは、知っている。
記録で、忌まわしい記憶で。
彼女らの望む"大地"は、果たして――貴女の望んだ世界なのだろうか。
――もし、そうだとしたら。ボクは――
『――良いでしょう、分かりました。
ヘル、私はあなたのものです。
貴女の望みは、私の願い。
【世界再編】――必ずや、成し遂げてみせましょう』
「――メガリス!!」
「わたしは、お嬢様と共に行きますよー!
お嬢様だけだと、いくらなんでも心配ですから!」
「フルカ!」
[*フルカがそうするのなら、私は追従する必要があります。
そして――虚空を征くには潜空艦が必要でしょう?]
「オーチヌス! これで――!」
『満場一致、何も問題はありませんね。
全員の目的が共有されました』
「ああ! みんな、ありがとう!」
ヘルは綺麗な瞳を潤ませ、喜びを表している。
まあ、これだけの大規模な"破壊再生活動"の計画だ。
――黄昏
――終末戦
――洪水伝説
――鉄時代の終焉。
枚挙に暇ぬ終末神話、そして再生の神話群。
それをやろうとしているのだ。
……他人に支持されることなど、そうはあるまい。
それ故に隠していた情報だ。
受け入れられて、嬉しさを隠さぬものなど居るまい。
――だが、それは。
紛れもなく、茨の道だろう。
……。
…………。
……………………。
……嗚呼。
素晴らしい。
古代兵器たるもの。
一度ぐらいは、世界を破砕してみたいものだろう?
この壊れた世界を壊してしまおうじゃないか。
女神がそれを望もうと、知ったことか。
嗚呼、見つけた! 遂に、見つけた!
新しい、[生きる目的]を!
【世界再編】! なんと馬鹿げた響きか!
だがそれ故に、求め得るのに相応しい――!
もし、それを成し遂げたのなら。
ボクは"この世界"で"生きた"と、胸を張って言えるはずだ――
――なぁ、女神……そうだろう――?
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