52話【困惑と、未定義】
「終わったぞ、フルカ、メガリ……ス――!!!」
ヘルが扉を開け、この衣装部屋に入ってきた。
最初に見たのはおそらくフルカ。いつもの侍従衣装ではなく、村娘風の装いだ。
そして、次に見て、絶句し、絶叫したのは――言うまでもなく、ボクの姿だろう。
「私の思ったとおりでした! メガリスさんの小柄な体躯がこうも映えるなんて!
はあぁ~……メガリスさんっ! 可愛いですよっ!!!」
……今の、ボクの姿は。
「ふふ、ヘレノアール様! 今日のメガリスさんは一味違いますよ!
名付けて――[新人メイドのメガリスちゃん]ですっ!!」
『……………………………………………』
「――ッッ!!!!???」
……そう、フルカの着ていた、侍従衣を着ているのだ。
長い髪は球状巻編みに纏められ、薄手の覆袋で包まれている。
あからさまに背丈の違うフルカの衣装がまともに着られるはずもなく、衣服はなんともぶかぶかだ。
袖から指すら出せず、ぷらんと揺られるがままになっている……という有様だ。
更には総脚肌着状のものを履かされ、真っ白な長手袋までつけられて――今のボクは、僅かたりとも露出している箇所はない。
……ない、けれど……。
これは、その。
なんというか――["別の問題"]があるのでは……?
……見よ。ヘルなんて、あからさまな放心状態だ。
口をぽかんと開け放しのまま、目をこちらに向けたまま微動だにしない。
顔を耳の先まで真紅に染めて、どこか熱っぽい瞳でこちらをじっと見つめて――
……うん?
これは――違う。{呆れ}じゃ、ない?
[観測]
――[解析]
――――[類似パターンの検索]
――[推論作成...]
[結果の記録]……内容は――
……{魅了}?
……{回顧}?
……{感極まる}――?
――{あまりにも「可愛くて仕方がない」}?
「 ―――― 」
「え? ヘレノアール様? なんて仰ったのです?」
……聞き取れてはいる。聞き取れてはいるが――意識が、受け入れられない。
ヘルはゆっくりとした足取りで、ボクの方へ近づいてくる――
『……へ、ヘル……?』
ボクは困惑の声色を出力する。
――いや、これは……無意識のものだ。
言うならば、自動的に――ボクは困惑をしているのだ。未知に。
「……メガリス」
眼前のヘルが口を開く。
ボクはそれに答えようとする。{『はい、ヘル』}と。
――その言葉が、放たれる前に――
『――!?』
[表面接触]
[熱量測定:人肌相当]
[耐衝撃機構:動作無し、軟接触]
[触覚反応:上体、対正面表皮から後背部]
....
――ボクの小さな機体は、少し背の高い彼女の身体に包まれていた。
『ヘル……?』
「……」
抱擁、懐抱、抱締。
含まれる感情は、おそらく――親愛。
少なくとも、勢い余っての{×××}では――ない、と思う。
ヘルは何も言わないまま、ボクの機体を抱き締めている……。
……こそばゆい。
『ヘル』
「……ん」
ようやく反応があった。
ヘルはそのまま言葉を紡ぐ。
「ああ……すまない、メガリス。
その、なんだ。つい――"こうしたく"、なった」
幾許かの"揺らぎ"を覚える声。
いつもの、綺麗な、凛とした声とは――少し、違い。
『……何か、あったのですか?』
「――そうかもしれない。
だが、そういうものでもないんだ」
紡がれる言葉は、どこか曖昧で。
「ただ今、私は……"そうしたい"と感じた――ただ、それだけなんだ」
『そういうものでしょうか?』
何かを抑え、隠すかのように。
「ああ、そうだ。
そういうことに――してくれれば、助かる」
それは、きっと。
『分かりました、ヘル。
そういうことにします』
自身の知らない、彼女のことなのだろう。
だが……彼女はそれを、必死に隠そうとしているのだ。
――そこに、敢えて触れようとするのは……無粋、というものだ。
……その。
……[家族]、なのだから――
――少しぐらい、"優しさ"のようなものがあっても……良いだろう。
ならば、何をすべきか?
……決まっている。
いま、必要なものは、一つだけだ。
[行動:未定義]――{そっとしておく}……今は、それで良い筈だ。
そういうことに、[定義づけた]のだ。
「――ありがとう、メガリス」
と言い、ヘルは抱擁を解いた。
どうやら、少しは落ち着いてくれたらしい。
「ああ、それと――話がある。
メガリス――フルカもだ。
二人とも、聞いて欲しい――」
すこし、真剣そうな表情になったヘルは。
そんな風に、話題を切り替えたのだった――




