4話【"名を与える"という事】
――[処理]
『いずれも否定されます、フルカ・フォーカス』
『ボクは人間ではなく、妖魔なるものでもなく、カミサマに連なるものでもありません』
「……? それでは、一体――」
疑問符を浮かべる、片眼鏡の少女。
そこへ、割り込むようにして、いくらか険のある声。
「――では、なんだというのだ?」
おや、どうやら落ち着きを取り戻したらしい。
金髪の少女がボクに向き直り、真剣な表情で問いかける。
先程の動揺は最早影もなく、碧い目が真っ直ぐにこちらを見据えている。
――ああ、いい目だ。いい表情だ。
ならば応えよう。
そうでなければ、面白くない。
『ボクは兵器です、ヘレノアール嬢』
『ですが、今はまだ何者でもない』
『なぜならば、敵が定められていないからです』
「……戦いの道具、か」
金髪の少女は、どこか複雑な表情を見せる。
何か、思うところがあるのだろうか?
「ならば」
「お前は、何を求める?」
「武器の使い手か、討ち果たすべき敵か」
『どちらも』
『貴女がそれを与えてくれるのなら』
『ボクは貴女の剣となり、弩となり、破城槌にも投石機にも成りましょう』
『……そして、願わくば』
『この兵器に、名前を』
『自我には、それが必要です』
一息に、言い切る。
「名前……?」
少女は少しばかり目を見開き、キョトンとした表情を見せる。
そして腕を組み、顔に指を当て、首を傾けて目を瞑る。
思考の仕草だ。
「――メガリス」
「旧い言葉で、遺物の意味だ」
「この遺跡に独り遺されたお前を、私はそう呼ぼう」
『――是』
悪くない。ああ、悪くない。
やはり、名付けてもらうというのは良いものだ。
自ら己を定義付けるというのも、実に魅力的だ。
だが、他者によって認識されるというのもまた、素敵なものだ。
それでこそ、転生した意味があるというものだろう。
しかし、少しばかり、気になることがある。
『……どこか、女性的な響きに感じられるのですが』
「うん?」
心底意外だ、という表情。
――"意外"?
……待て、そういえば。
今のボクは、どんな姿をしているのだろうか。
「どこもおかしくはないだろう?」
思わず、自分の手を確認する。
「私から見て、お前は」
白い肌、細い指、陶器のような艶……。
これでは、まるで――
「どうみても、可愛らしい少女のようにしか見えないが……」
『――!』
[思考停止]...
[作業工程の強制終了]
...[再始動]
『――失礼、何か』
『姿を写すものは、ありませんか?』
「どうぞ!」
片眼鏡の少女が、小さな手鏡を差し出す。
ボクは、ひったくるようにして鏡を受け取り、覗き込む。
――そこには。
あの女神によく似た、小柄な少女の姿が写っていた――