47話【みとめることを】
塔上に着地し、剣の方を見る。
宝玉は煌めきを失い、どこか中身が渦巻いているように見える。
……目を、回しているようなものなのだろうか……？
とにかく、どうやら気絶しているようだし、このまま放置したままでは非礼だろう。
ゆっくりと剣の方へと近づき、手を伸ばす――
『――！！』
――だが、突き立てられた剣は、影のように掻き消える！
その存在を示すのは、床の小さな損傷ひとつ。
消えた剣は、痕跡一つ残さない！
――ッ！ 四方や、これは――
『――分身！？』
ガルトノートに傷を与え、残る分身は全て掻き消えた――
――だが、それこそが罠ッ！
何処かで分身とすり替わり、潜み――こちらが{『勝った』}と油断した所を穿つ狙いか――！
恐らくは、前に見た、ヘルとの試合。
それと同じ手法……ならば、ヤツは今――！
集音器を澄ます……
シィンと静まり返る夜の塔……
聞こえるのは僅かな風の音と――
――風切音！ ……後方！
なら――これしか無いッ！！
ボクは咄嗟に。
[半身急速反転]
体の上半分だけを後ろに向けて、飛翔物を視認する。
［‡【雲身剣・影打】――躱 せ る か？］
『……』
やはり、剣……！
高速飛翔する対象物への対応に、時間間隔の鈍化が生じる。
この須臾の間さえあれば、電子頭脳を弄ぶのには不足はない。
恐らく直撃は刹那。噴気を放つ間さえ無い。
狙いはどうやら心臓に相当する位置。
説明書では、確か――魔導力炉！ 紛うことなき重点保護部位だ！
もはや手加減を期待するのも軟弱。
確実に仕留めるほどの一撃が齎されるものだと仮定しよう。
――ならば、どうする？
勿論【造兵廠】を組み替える時間はない。
展開中の連接剣は守りには不足。
せめて左腕が無事なら、鉄血を噴射防御することが出来たのに――
だが、それは無い物ねだりだ。分離した部位には距離がある。
――鉄血？ ……待て、確か――
『――来い、魔剣！』
［‡――潔しッ！ わが全身にて――貴女を穿つ！］
時間が、加速する。
刃が迫り、致命の一撃は間もなく完成するだろう。
ボクは右腕部を突き出した形で、剣の必殺剣を受けた――
『【腕に抱く造兵工廠】……解除！！』
［‡！？］
造兵廠の噴出口が開き、もとの鉄血へと戻り始めた連接剣が吸い込まれていく。
そこに、剣の刃が直撃する！
戻ろうとする鉄血に流され、吸い寄せられ、造兵廠の裂け目へと刃が突き立てられる！
［‡この、手応えは――！！］
空を切る――空を裂く――空を穿つ……！
――然り、虚無――虚空そのもの！
造兵廠に、内包虚空に、押し込まれゆく刃。
鍔、柄、そして、柄頭の――宝玉！
『――捕えたッッ！！』
右手指を閉じ、柄頭だけをしっかりと押さえ込み、握りしめる！
［‡グ……ァアアアアアア！！！］
剣はこれ以上虚空へ進むのをやめ、腕の中に留め置かれる。
進めず、戻れず、逃れきれぬ！ これにて、[完全拘束]の完了！
『……まだ、やりますか？』
［‡……いいえ］
宝玉は白旗でも上げるかのように白く明滅し、剣は言葉を続けた。
［‡――見事。アレを破ったのは、貴女で3人目なのであります。
自分の、敗けであります。新たなる義妹］
『良い、勝負でした。
……ガルトノート義兄さま』
――握手。おそらくはきっと、それに相当する。親密な接触。
ああ、多分。多分なのだけれど。
剣に、何かを、認めてもらえた。
そんな風に、感じた――
